「俺は君のためなら、世界中の人間だって殺してみせる」

 たぐいまれな白金の髪と萌えいずる若葉の瞳をもつ美少女セレーヌは、13歳まで修道院で育てられた。実母と生き別れ、敬愛する前院長を亡くした彼女は、身に覚えのない罪で死刑を宣告されてしまう。彼女の前に現れたこの街の死刑執行人フィネは、少女に取引をもちかける。彼女の生命を救う代わりに――結婚して欲しいと。

      ◆◇◆

 衝撃的な導入で始まる物語です。フィネという男、いったいどんな変態かと(失礼)思いつつ読み進めるのですが、意外に彼も、彼の母ミリーも極めて健康な倫理観の持ち主です。
 中世において、社会で必要とされながら忌み嫌われてきた「死刑執行人」の家系。その一族に産まれ育ち、人間の醜さを観てきたからこそ、フィネはセレーヌを大切にすることが出来たのかもしれません。
 ミリーとフィネ親子に慈しまれながら、徐々に心を開いていくセレーヌには、ある人を探し出したいという想いがありました。それは、幼い頃に別れた「だいすきな、お母さん」――。

 真実を求めるセレーヌは、やがて残酷極まりない現実と直面します。

 作者さまの豪華で耽美な筆致でつむがれる物語は、いつもながら人の愛憎を克明に描きだします。時に儚く、無情なまでに美しく。
 他の作品との共通点もあり、既読者にはその縁を辿るのも嬉しいでしょう。勿論、初めてでも理解できます。

 脆いところもあるけれど懸命につよく生きようとする少女と、彼女を護る「死刑執行人」の物語。どうぞご堪能下さい。

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