第9話 初依頼
「で、助けっていうのは?」
とはじめての依頼だから、主導権は部長が握っていた。
「はい。モフルのことなんです」
と女の子はそう言って、一枚の写真を僕たちに見せた。
そこには、笑顔のリス耳の男の子と目の前の女の子が写っていた。
「この子?」
と写真を指差して尋ねると、
「はい」
と短く女の子は応えた。
「この子は今どこに居るの?」
と部長が聞くと、
「それが、行方不明でして」
とか細い声で答えられた。
思わず、
「ここに警察とかって無いんですか?」
と二人に向かって聞いたら、
「あるよ?」
「ありますよ」
と同時に応えられた。
「じゃあまずは警察に相談でしょう!?僕たちに相談する前に」
と声を荒げて玄関に行こうと席を立ったら、
「警察に言っても意味無いから、僕たちに依頼が届くんでしょうが!」
と落ち着けと僕の横腹に部長のパンチが発射された。
しかも手加減無しの容赦ないものだったから、僕はその場にうずくまった。
声さえ出せない。かなりいい感じのところに収まった。
ガチかよ、オイ。
僕が一人椅子の上でうんうんうなっているのを、女の子は少しだけ心配そうな顔を向けていたら、「こいつは大丈夫だから、心配しないで♪」と横で部長が言い捨てて、二人で話を進めていった。
僕は二人の話をうんうん言いながら聞くしかなかった。
「大体どこに行ったとか、何か言っていたとか覚えていないの?」
と部長が尋ねると、
「全く見当もなくて。よく行く場所も探しに行きましたけれど、居なくって」
「なーんか些細なことでもいいんだよ。なんか食べたーいとかさ。なんか遠くに行きたーいとか言ってなかった?」
と部長が優しめに聞いている。そのことを心の中で気味ワリイと思っていたら、
「もう一発食らいたい?」
と僕の方を見ないで部長はボソリと吐いてきた。
僕はゾクリとして、「すみません」と小さく女の子に聞こえないように謝った。
女の子は僕たち2人の会話になんて気がつかないくらい真剣に思い出そうとしていた。
「何か二人の思い出の食べ物とか、思い出の地とか無いの?」
部長が尚も聞く。
あんまりにも女の子がうんうんうなっていたから、
「何か……記念日みたいなのありますか?この町って」
と僕はふと聞いてみた。
すると、
「記念日……ああ!そうです!今日、私たちの記念日なんです!」
と女の子は大声をあげた。
女の子が言うには、今日は二人の知り会った日らしい。よくあるカップルの記念デーだ。微笑ましいはずなのに、僕は少し寂しくなった。
毎年知り会った場所で一日を過ごして、お祝いをしていたらしい。
でも、今年はその日のことについて話をしようとするとはぐらかされたり、なんだか興味がないフリをされたから、てっきり嫌になったのかな?と思っていたとのことだった。
「そりゃあ、絶対サプライズ仕掛けているでしょう」
と僕が言うと、
「甘いな」
と先輩が言った。
なんだ?僕の意見に文句でもあるのか?と睨むと、
「トドロキ君は甘いねえー、あまあまだねえー。そんな単純なもんじゃないよ」
と腕を組んで得意げな声で言われた。まるで見えない伸びきった鼻が見えるようだった。
「じゃあ先輩はなんだと思っているんですか?」
と聞くと、
「ズバリ!プロポーズだね!」
と人差し指を立てて、自信満々に言った。
その言葉に女の子は口を両手で隠して、顔を赤らめた。
「もしもそれが本当なら、僕たちがそれをネタばらしして良かったんですかねえ?」
と目を細めて聞くと、
「まあ、ダメだろうね。彼の折角の用意が全て水の泡だね」
と淡々と答えられた。おいおい、じゃあ言っちゃダメじゃねえか、と思ったら、
「だから、今度は僕たちが彼にドッキリを仕掛けよう!」
と先輩は言った。
その前に、その場所に彼が居るかどうかの確認はどうするんですか?と聞くと、
「大丈夫だよ、そこに居るのは確実なんだから」
とシレッと返された。
この人、自分の言っていることが絶対正しいって思ってやがる……と呆然としていたら、
「ホマレさんの言うことは、絶対当たるんです。去年、本当に全て当てていったんで」
とコソリと女の子が僕に告げてきた。
全部?!と思って聞くと、
「はい。本当に全部。だから、間違いないと思います」
と女の子は一回コクリと頷いた。
信じられないと思いながら先輩を見上げると、先輩は勝手に何事かを計画していた。
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