第14話 初依頼完了ですか?
「で、僕たちはどうしたらいいんですか?」
二人の姿を見送りながら、僕は先輩にそう聞いた。
だって、二人の後つけるとか、とんだ空気読めねえ人間じゃん。
そうボンヤリとリア充を見ていたら、
「もうすぐお迎えだよ」
先輩は微笑ましく二人を見ながらそう言った。
先輩がそう言ったのと同時くらいで、僕の右ポケットが光った。
「はっ?!」
目をつぶりたくなる程の明るさに、咄嗟に変な声が出た。
先輩は涼しい顔をして、
「トドロキ君。君、紙持っているでしょ?出してみてよ」
そう命令した。
僕は先輩が言った通りに、ポケットから紙を出した。
まぶしく光っていたのは、その紙だった。
「で?これが何なんですか?! 」
紙を直視できずにそう僕が聞くと、
「よく見てみなって」
先輩はニッコリとしてそう言った。
「見ろって言われてもまぶし……」
左手で目元を遮りながら、右手でつまんでいる紙を見ようとしたら、
「サングラス、買わないとね♪」
先輩がそう言って僕の目元にサングラスをかけた。
サングラス越しに見ると、若干光はやわらいで、僕は紙を見ることが出来た。
見てみたら、紙には確かに依頼文が書かれていたはずなのに、それが消えて
【依頼完了】と書きかわっていた。
「とまあ、そういうことだから、戻るよ!」
またもや先輩の合図で、こっちに来た時と同様、僕は大きな渦を身体中で感じた。
* * *
目を開けたら、部室の床に転がっていた。
「イテテ……」
腕時計を確認すると、もう20時近かった。
「あーあ、鬼教授の授業……」
僕単位無事に取れんのかな?今年。
そうため息をつくと、
「初依頼任務完了、おめでとう!トドロキ君」
僕の目の前で仁王立ちになっていたヤスキ部長が、そう両手を広げて言った。
まるで僕をWelcome!してハグしそうな格好で。
「……飛び込まねえし……」
ゲッソリとした心持ちで、そう冷静に答えると、
「ノリが悪いなー、君は」
腕組してそっぽ向いて、先輩は怒り出した。
意味分かんねえ……
今日1日で、僕の中で先輩は先輩じゃないという決断が下った。
この人のことを尊敬出来る部分が見当たらねえ。
そんな風に思っていたら、
「まあ、冗談はこれぐらいにしておいて。初任務はどうだった?」
お決まりの先輩の笑顔で、片手を差し出された。
僕は先輩のその手を取るフリして、はたいた。
「って、素直に握ると思うなよ!絶対何かされるだろうが!今日1日のやられたこと考えたらよ!」
そう言って僕は自力で起き上がった。
そんな僕を見て、笑顔で盛大な舌打ちが聞こえた。
やっぱり何かするつもりだったんだ。
ここ、床コンクリートだし、凶器になる備品類は一応周りにないけれど、それでも何が起こるか分かんねえよ。マジでこの人何なの?!危険人物なの?!
と背筋に寒いものを感じた時だった。
「これにて、勇者1日目終了だけど、感想は?」
先輩が今日一の真面目な顔をして聞いてきた。
その様子にちょっとだけ僕は驚いた。
この人、こんな顔も出来るんだ、と思って。
「まあ、ありえないことが続きましたから。まだ処理出来ていませんけれど。勇者ってあんなのでいいんですか?」
質問し返すと、
「段々慣れてきたら、貫禄もつくよ。それまで僕がサポートするから心配しないで」
歌うように言うから、
「あんたのサポートが一番危険なんだっつーの」
ボソリと本音を吐いてしまった。
あ、ヤベエと思って先輩の顔を見ると、
「ま、これから色々体験していけば、否が応にも分かることだよ」
穏やかにそう締めくくられた。
ここは一応先輩、年上として振舞ってくれたのかな?と思った。
学校を出たら、外は当然真っ暗だった。
「じゃあ、気をつけて帰りなね!」
母親めいたことを言われて、
「いや、先輩も帰る方向同じでしょうが!」
ツッコんだら、
「僕は報告しに行かないといけないからね。ここでお別れ!」
そう言われた。
「報告って?」
「お偉い方さ。トドロキ君も、最後には挨拶しないといけないし、来年サポート係になったら、嫌でも顔合わせなきゃいけなくなるよ。今日は疲れただろうからお休み!」
少しだけ悲しそうな顔を先輩がするから、僕はちょっとだけドキッとした。
そんな僕にお構いもせずに、小さい子みたいに先輩はブンブンと手を振ってくれた。
クルクル表情や態度を変える先輩に、僕はなんだか肩の力が抜けて、
「今日はめちゃくちゃでしたけれど、ありがとうございました!」
そう言って頭を少しだけ下げて、寮に帰った。
だから、先輩がそんな僕の後姿を見ながら、
「あーあ、彼を巻き込んでしまうなんてなあ。精々怪我させないようにしないとなあ。去年の僕の後始末、彼に任せないといけないとか、ホント傷抉るよなあ~」
悲痛な顔をして、ボソリと吐いていたことなんて僕は知らない。
僕はこれからの、勇者の任務についてあれこれ不安を抱えて、
明日からの授業に、今日自主休講した授業について頭を悩ませていた。
その後、僕の身に起こることと、先輩が何かを抱えていたこと、
更には異世界での依頼について、僕はまだ本当に何も知っちゃいなかった。
キレイな部分だけを、撫でて触れていただけに過ぎなかった。
≪END≫
勇者はロッカーから出没する 翠 @Sui_00
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