第12話 誰にだって秘密ぐらいあります
「それ何ですか?」
地面と友達になるのを僕は止めて、起き上がって先輩にそう聞いた。
そんな僕の問いかけに先輩は、
「彼の大事な秘密事♡」
そうちゃかした。
本当にこの先輩は食えない人だな、と心の中で思いつつ、先輩が彼に突きつけた紙を僕はひょいと奪った。
僕に奪われるとは想定していなかったみたいで、いともアッサリ先輩は僕に渡してくれた。
「何々?……異種族変更届?」
なんじゃそりゃ?と思いながら、僕は頭を傾げた。
異種族って……またなんかややこしい言葉が出てきたなあ、ぐらいに思っていたら、
「ホント君ってデレカシーって言葉知らないのかな?」
そう声が聞こえてフッと暗くなって顔を上げたら、僕の顔ギリギリに、先輩の顔が見えた。
その次の瞬間に、僕の額は大きな音を鳴らした。
「いってええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
何年振りかに本気で僕は叫んで、地面をゴロゴロしながら、頭がカチ割れたんじゃないかと思いつつ、自分の額を両手で押さえた。
「本当に君はペラペラと何でも知りたがる……」
一応僕勇者だし(この世界の設定上)、しかも、僕は彼と彼女のことを助けに来たんだし、少なくとも知る権利は持っているハズだ。
しかし、先輩に向かってそう言えなかった。
とりあえず、頭が額が天変地異起こしたんじゃないか?ってぐらいイタイ。
あの先輩は石頭だ。
痛がっている僕を無視して、先輩はモフル君に向き直った。
「ごめんね、新人が出しゃばって」
そう詫びている声が聞こえた。
僕の尋常ならざる様子を見て、彼は少しだけ戸惑いの声音で、
「いえ……」
呟いた。
すっごく無言で、――あの人大丈夫ですか? ――あー大丈夫大丈夫、ほっといても死なないから無視しておいて。
なんて会話が聞こえてきた。つーか、感じた。
なんだこの適度な放置プレイ。
「とりあえず、君はこれを彼女に知られるのが怖かったんだね。だって、婚姻関係結ぼうと思ったら、絶対知られちゃうことだもんね」
態度を戻して、先輩が彼にそう言った。
そのやり取りを聞いていた彼女の方が、
「どうして言ってくれなかったの?」
困惑した声をあげた。
なんだ、この紙に書かれてあること、そんなに重要なことなのか?
と僕が密かに思っていたら、
「今日初めて来たトドロキ君には教えておかないとね。
この世界には、色んな種族が居るんだ。彼らみたいに獣耳の種族が人口の大部分を占めているんだけれど、稀にそれ以外の種族も居るんだよ。そして、彼らは種族替え、僕たちの世界で言えば、国籍を変更するみたいなもんだね、それを行うんだ。そうしてこの町で暮らせるんだよ」
先輩が高らかに、僕の目線にしゃがみ込んで説明してくれた。
説明してくれるんなら、初めから頭突きなんてかますな、腐れ外道め。と思ったら、割れる程痛い額に、笑顔でデコピンを当てに来そうにされたから、思わず全集中力を使ってそれを回避した。確実に舌打ちが聞こえたけれど、僕はとりあえず更なる大ダメージを逃れたようだった。
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