第6話 異文化ルール


この世界は、見た目が僕たちと違って、全員獣耳がついているらしい。

モフモフしたくなっても、触っちゃダメだよ、と注意事項を受けた。

耳を触るのは、僕たちで言えば性器を触られるくらいに失礼に当たるらしい。


「触ったんですか?」


と聞いたら、


「ガチであの時は死ぬと思った」


と答えが返ってきた。

分かったことは、この部長は身をもって知らないと、ダメなことはダメだと分からない性格の人だということだった。

そして依頼書である紙。

これはランダムに、ある時いきなり扉に挟まっているらしい。

時間は必ずその日の朝7時以降。

紙を発見したら、その日の内にこの世界に来て、問題解決をすること。


「もしかして、魔王とか出てきますか?」


と少し期待しつつ聞くと、


「魔王?君、RPGのし過ぎだよ。たしかに勇者とは言ったけれど、それは例えの表現なんだよ。この世界は平和そのものだよ」


と答えられた。


「ど〇ぶつの森みたいなもんですか?」


と更に聞くと、


「そこまでほのぼのとはしていない」


と返答が返ってきた。


「つーか、毎年選ばれるってなんなんですか?」


「毎年1人が選ばれて、この世界の勇者に任命されるんだよ。そういうものなの。同好会も大学創立の時くらいからあるんだから。結構伝統ある同好会なんだよ?誇りに思わないと」


「っていうか、なんで同好会なのに、部員が部長の1人だけなんですか?」


「そういうもんなんだよ」


「たしかウチの大学って、同好会になるには、最低でも3人は必要じゃなかったですっけ?」


「非公式の同好会だからねえ」


「それって本当に伝統あるんですか?」


「失礼だなあ。教授の中にはOBだって居るくらいなんだぞ?」


と言われた。

マジかよ。あんなむさくるしい教授の中に、この世界に来た人がいるのかよ?と思って誰だか聞こうとしたら、そこはガンとして教えてくれなかった。

結構口は堅いみたいだった。アホだけど、この部長。


「依頼ってどんなのですか?」


「様々だねえ。庭の草むしりから、薬草取り、果ては隣家との話し合い」


なんだか近所づきあいの仲介役、町の小さな警察官って感じを受けた。



「さあーて、とりあえず腹ごしらえとでも行こうか」


と部長は嬉々として言った。

民家がある町に着くまでに、1時間は歩いた。

僕はほとほと疲れていた。


「なんでそんな元気なんですか?」


皮肉を込めつつ言うと、


「うん?トドロキ君はもうちょっと運動しないと。ここは、よく歩かなきゃいけないからね。自転車や原付、車があると思ったら大間違いだよ」


と僕の皮肉は全く通じなかったようだ。


「ハア……」


とため息をつくと、


「ああ、馬とかを使った馬車的な物はあったかな?リヤカーの進化版。でも、それも一部の裕福な者たちのみ使えるってかんじだしねえ」


と部長は陽気に応えていく。

僕が後ろで一人へばっているのも忘れて。


「まあ、まずは挨拶からだよね、何事も。町長の場所に行くよ!」


と部長は片手をビシッと上にあげて、元気よくそう言った。

僕はそんな部長の姿に、ゲッソリとした。



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