第5話 他人の都合はキチンと聞こう


目が覚めると、芝生の上に居た。

腰は強打していないようだった。


「いやあー毎回思うけれど、気絶するのは、やっぱり道中を探られたくないからかねえ?」


と隣で部長の暢気な声が聞こえた。

目線を移動させると、部長も寝転がっていた。


「なんで蹴ったんですか?」


重要なことだったから、とりあえず質問した。

すると、


「うん?時間が勿体なかったからだよ」


と空を見上げながら、部長は応えた。

時間が勿体なかったからって……

そう思っていたら、


「だって、そうでもしないと君はあの中に飛び込まなかっただろう?」


と部長は応えて、よいしょっと言いながら上半身を起こした。

それに倣って僕も起き上がる。


「さて……と、まずは民家があるところまで移動しよう。そういえば、**君は今日授業は終わったかい?」


と現実的な話をされた。

腕時計を見て、


「えーっと、3時半から授業が入っています」


と答える。ここの時間が同じなら、あと4時間ほどで授業が開始される。

それを聞いて、


「そうかあー、残念だけど、今日は自主休講してくれないか?」


と部長は言い放った。


「はあ?必修なんですけれど?しかもあの鬼のオギの授業なんですよ!?」


と抗議の声をあげる。

部長が同じ大学なら、あの教授の授業の厳しさを理解しているだろう。


「それは災難だったね。まあ、1回くらいのお休みなら鬼だって目を瞑ってくれるさ」


と部長は何でもない様に答えた。

他人事だからって無責任すぎる。


「そういうことは、まず初めに時間割を聞いた上で行くか行かないかを判断するべきなんじゃないですかねえ?」


と怒りを抑えながら言うと、


「仕方ないじゃないか。鍵である紙が、今日君の元に届いたんだから」


とシレッと言われた。


「はあ?」


と仮にも年上だとは分かっていたが、そう声が出た。


「鍵はね、毎回届くんだよ」


民家に向かいながら、部長は説明してくれた。


「毎回って」


「あの鍵は、依頼書なんだ。中身読んだ?」


と部長は紙をかざして聞いてきた。


「いえ。……つーか、それって文字なんですか?」


と聞く。

中身を開いたけれど、子供の落書きか?と思う様な内容だった。


「トドロキ君はアラビア文字とか古代文字とか、ちょっとは見たこと無い?」


と部長は聞いてくる。


「まあ、チラッと教科書に載っていたもんなら……」


と答えると、


「この文字は、それの親戚。要は、この世界の文字なんだよ。だから、この世界からの依頼書ってわけ」


とひらひらと部長は紙を振りながら、答えた。


「……ってことは、部長はその内容が読めるんですか?」


と聞くと、


「今ならトドロキ君も読めるよ。ホイ」


と紙を渡された。

僕はもう一度紙を開いてみた。

すると、朝読んだ時と違って、僕が読める日本語に直っていた。

そこには、やっぱり子供っぽい字で、


【モフルを助けて下さい】


と書かれていた。


「何ですか?コレ」


と聞くと、


「だから、依頼書だってば」


本当に物分かりが悪いんだねえーと零された。

そこからは、少しばかり部長からのこの世界についてのレクチャーを受けた。



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