第2話 勇者同好会



大学D棟、3階奥の部屋。

そこは普段なら絶対に近寄らないし、使用したと聞いたこともない部屋の前に僕は居た。

扉の前にはただ無機質に、【D-309】と部屋番号が書いているだけだった。


「本当にこの部屋であってんのかよ?」


そう呟いた時だった。


「いらっしゃーい~」


僕の背後で声がした。

気がつくと、僕の肩に誰かの腕が乗っている。


「ヒイイイイイイイイ!!!!!!」


と思わず驚いて、肩に乗っていた手を思い切り振り払ってのけ反る。

僕の後ろから声をかけた主は、そんな僕の様子にも驚かずに、


「なーんだ。案外気が小さいねえ」


と感想を漏らした。


「あんた誰だよ!」


いけないとは思いつつも、そいつに指をさしながら、そう叫んだ。

いきなり人の背後から脅かすのは、ルール違反だ。

そいつは飄々とした感じで、


「僕かい?僕はここの部長だよ~」


と軽く答えた。


さあさあ入り給え、とそいつは部屋の扉を開けて、僕を招き入れた。

部屋の中は普通に教室だった。

机が何十脚か置いてある。しかし、ぜんぶ隅の方に追いやられていた。


「まあ、立ち話なんていうのはナンセンスだから、適当に座って」


そう言われて、一番扉に近い場所にあった椅子を取って座った。

パイプ椅子独特のキイという音が鳴る。


「えっと、とりあえず名前を聞こうかなあ?」


部長と名乗ったそいつは、変わらず淡々と少し楽しそうに僕に質問を投げかけた。

よくよく観察してみると、背は180を超えて長身で、髪の毛は肩にかかる程度に伸ばされいた。筋肉のつき方や声の感じから同じ男性だと思われた。


「名前?……トドロキだけど」


苗字を名乗ると、


「トドロキ君かあ。今年は君が大当たりしたんだねえ」


と部長はそう歌うように言った。


「大当たりってなんですか?」


と怪訝な顔で聞くと、


「うん?トドロキ君は入学式欠席していたのかなあ?」


と問われた。


「いいえ。キチンと出席しましたよ」


と答える。遅刻もせず、開始30分前から席には座っていた。


「おかしいなあー。だったら絶対にこの話は聞いているはずなのに」


と部長は首を傾げた。

僕ははじめの時から部長の態度にイライラしていて、


「というか、ここは何の部活なんですか?!」


見たところ他に部員が居ない。

少し強めにそう言うと、


「おーおー、おっかないねえ。カルシウム取ったら?」


と目を細められてそう答えられた。

演技っぽく肩をすくめられて。

そのことにもイライラが増す。


「本当に知らないんだねえ。……ここは、【勇者同好会】だよ」


とアッサリと言われた。


「勇者同好会?」


一切聞いたことのない名前だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る