第3話 紙に秘密がありまして



「トドロキ君は何か紙を貰わなかったかい?」


と部長は臆することなく、そう尋ねた。

紙と言われて今朝のことを思い出して、ズボンの右ポケットに入れていた紙を取り出した。


「これのことですか?」


そう聞くと、部長の顔は今までで一番輝いて、


「それだよ!それ!それが印なんだ!」


と僕の手から紙を奪い取った。

あまりにも素早く強い力に、僕はビックリして紙を挟んでいた手を後ろに引っ張った。

そんな僕の様子なんか気にもしないで、部長は紙を愛おしそうに眺めていた。


「ところで、それ何なんですか?」


部長の変容ぶりに驚きながらもそう尋ねると、


「これはね、鍵なんだよ」


と部長は恍惚とした表情で答えた。


「……鍵?」


ここに来てから一つも疑問点が解明されず、ますます訳が分からなくなる頭を抱えながら、僕はそう繰り返した。


「そう、鍵。異世界への鍵さ」


と部長は普通のことの様にそう言った。


「異世界?!」


と最近ネット小説で話題のジャンルの言葉を聞いて、声が裏返った。

ガチでそんなこと言う奴居るのかよ?という気持ちを持ちながら。

そんな僕の心情を読み取ったのか、


「あー今バカにしたねえ。トドロキ君は想像力がないのかなあ?」


と部長は僕に向かって指を向けて、クルクルと円を描いた。

その仕草にイラっとしながも、


「別に、バカにはしていませんよ。あんまり聞きなれない言葉だったから……」


驚いただけでという言葉は、部長の声によって消された。


「毎年一人、異世界の勇者に選ばれるんだ。そして僕は、その勇者をナビゲートする道案内人。この同好会は、勇者が無事に任務を遂行する為の窓口なんだよ」


と口の片端をあげて、少し自慢げに部長は言った。

道案内……ナビゲート……異世界の窓口……


普段聞かない、縁がない言葉なだけに、うさん臭さが倍増して、僕は思わず「は?」という口の形をした。

そんな僕の態度にも慣れた感じに、


「皆はじめはそうなんだよ。大丈夫、死にゃあしないから。だーいじょーぶ♪」


と部長は安心しなさいと僕を宥めた。

安心も何も、はじめっから、この人の話を一つも信用していない僕の気持ちなんて知らない感じに、いや、無視しているように話を進められる。


「あの、騙すなら学校一とは言いませんけれど、学部でカワイイって言われている位の女子を連れてきた方がいいですよ。もっとも僕にはお金なんてありませんけれど」


と早口で言う。

椅子から立ち上がって、扉の方に向かおうとしたら、


「君はもう今日から勇者だよ。放棄することなんて出来ないよ」


と腕を掴まれた。

意外と力を込められて、そこから動くことが出来なかった。

痛いわけじゃないけれど、びくともしない絶妙な力加減だった。










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