第8話 ご依頼人とご対面



「あ、ご飯食べ損ねたねえ」


とある家に向かって歩いている時に、部長がそう思い出したかのように言った。


「今そんな余裕ないじゃないですか」


と答えると、


「それもそうだったか……」


と部長ははははと笑って、また歩を進めた。


「ところで部長は本当にこの町を全部知っているんですか?」


と疑問を投げかけた。


「うん?知っているよ」


とこともなげに答えられたから、


「じゃあ、さっきみたいな番地って……」


と言うと、


「かわいいよねえー。この世界、無駄にかわいいんだよねえー。住んでいる人も名前もなにもかも可愛すぎ。さっきの町長だって、リルドラって名前なんだよー。ホント可愛すぎて嫌になるよねえ」


と部長は破顔した顔で言ってきた。

その顔を見て、思わず、


「気持ち悪い……」


と零したら、笑顔でみぞおちに一発食らった。


目が覚めると、ある民家の前に居た。

正確にはドサリと地面にたたきつけられて起こされた。


「トドロキ君、起きたかな?」


と部長が上から笑顔で聞いてきたから、


「最悪な目覚めですね」


と答えておいた。

それは結構とかほざきながら、部長は家の呼び鈴を鳴らした。

ほどなくして家の中から女の子が出てきた。

あまり見たことがないけれど、ロバの耳をしていた。

本当にここの世界の人たちって獣耳をしているんだ……と感動すら覚えてしまった。


「はい?えっと……」


と困惑する彼女に部長は、鍵である紙を提示して、


「ご依頼書承りました♪」


と笑顔で言った。


「あ!……ありがとうございます!」


と女の子はすぐに驚いた顔をして、家の中に招き入れてくれた。


「トドロキ君、いつまで地面と仲良くしているの?」


と部長が僕の方を振り返って言うもんだから、


「今から行きますよ!」


と少し怒りながらも僕はそう答えた。


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