骨太架空歴史ファンタジー

歴史小説好きは勿論、そうでない方にも読み応え抜群です。
ファンタジーは、やはり骨組みがしっかりしていないと、空疎なものになり、つまらないと感じてしまいますが、この作品においてその心配はありません。

中世の中東をモデルにしたかと思われる精緻な作り込みの世界観、魅力的な人物像、大胆かつ機知に富んだストーリー展開。どれを取っても素晴らしいの一言。同じ作者様の、弥生時代を題材にした「女王の名」を以前拝読しましたが、個人的にはそれを遥かに上回る完成度であると感じます。

はじめ、フィンに対して読者に心から魅力的だと感じさせ、引き込んでおきながら、ぼんやりとしたそのキャラクター像に、徐々に彫り込みを入れていく手法に舌を巻きます。
また、敵として描かれるべきアトマスやリョートなどはとても素晴らしい人間であることが示され、敵と悪の違いを明確化しています。
ウラガーンの面々である主人公ニル、ネーヴァやダンタールなどの人物像もとても安定感があり、全てのキャラクターに思い入れが持てます。

絶妙な会話のトーン、独特の力強く情感溢れる、淡々とした文体は、流石の増黒節といったところでしょうか。
史書を紐解いてゆく新たなスタイルが、目に新しいと感じました。

一話読み進めるごとに謎が深まり、一つ解決しては次の綻びが生まれる様は、まるで本当の歴史を読んでいるかのよう。
交差する人の思いや願いが生む摩擦。そしてその先にある理想の国家というもの。
彼ら一人一人が作り出す、パトリアエやバシュトーの歴史の行く末を、史記の読者としてこれからも追い続けたいと思います。

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