超常的な力を持つがゆえに機密機関に取り込まれ、ただただ戦いつづけるしかない環境に身を置く、丹羽しな子。そして、それを悔いながらもともに戦うしかない赤部健一郎。
二人は、ひたすらに国家という名のシステムから発せられる命令をこなしつづける。けれど、それでも傷つき、裏切られ、犠牲を払い、失う。二人がもがけばもがくほど、その力を欲する輩が彼らを追い包囲していく。
しな子の過去と、奪われ、失ったものが重なったとき、彼女のなかで、すべてを紅へと塗りつぶす、紅蓮の炎が燃え上がる。
二人を取り巻く欲望に押し潰されかけた絶望的な世界と、二人のその世界へ逆襲していく様を、是非ご覧ください。
この物語を読んで、『蓮葉の濁りに染まぬ心もて、なにかは露を玉と欺く』という古今集の和歌を思い出しました。
何物にも染まらぬ、無垢な心。
空っぽに見えて、奥底にはどんな熱にも炎にも曲がらぬ強さを秘めた美しい魂。
ヒロインである丹羽しな子には、悲しい過去と炎を操る能力、それしかありません。
けれど、ただ流されるがままに生きているわけではなく、素直に命令に従い、暗殺業をこなしつつも、彼女の心は確かに動き、生くべき道を見出そうと模索しています。
華麗なるアクションシーンの中にあるからこそ、より映えるしな子の繊細な心理描写。
様々なものを失っても痛みを感じないから強いのではない、失う代わりに様々なものを得、それを守ろうとするから強いしな子の姿には、憧憬以上に神々しさすら覚えました。
紅蓮の濁りに染まぬ心もて、なにかは虚ろの炎と欺かぬ――哀しく切なく、しかし美しく気高い魂が描かれた物語です。
炎を操る能力者・丹羽しな子。
国家機関「ライナーノーツ」に所属し、パートナーの赤部と共に、要人暗殺の任務を遂行する日々。
徹底的に刈り込んだ文章はまさにハードボイルドそのもの。
余計な装飾語を交えることなく、畳み掛けるように連ねられた短文が、却って登場人物たちの心理の動きを際立たせています。
曖昧なアイデンティティの中で、己の「個」に通じる何かを掴みかけては見失い、それでも淡々と仕事を続けるしな子。
兵器としての彼女をサポートしつつ、人間としての彼女を守ることを心に誓い、置かれた状況と自分の信念との齟齬に葛藤する赤部。
互いに寄りかかり過ぎない、それぞれ個でありながらも強い絆で結ばれた、純粋なる「パートナー」としての関係。
二人が男女の関係であったなら、もっと話は単純だったのかも知れません。
そのソリッドな描かれ方が実に見事で、この殺伐とした物語に絶妙な「人間臭さ」というスパイスを与えています。
組織を裏切り、窮地に立たされた二人。
彼らの戦いから、ますます目が離せません。
同先生のウラガーン史記目録のついでに読みに来ました。こちらはうってかわって、ライトな内容で更に幅広い層に人気が出そうです。
2020年代の近未来の東京を舞台に超能力、特務機関、など陰謀の臭いがプンプンする題材が目白押し。今のところド派手な戦闘シーンはありませんが、手をかざし気合の声と共に炎を操ったりせず、「見る」ことで能力を発現させるストイックさが何とも良い。きっと、ジャージのポケットに手を入れたまま能力を発揮するんでしょうね。
増黒先生の作品において人物の作り込みはどれも超逸品ですが、今回は更に細かなキャラクター像が設定されており、今まで映画っぽい作品を多く書かれていた中、はじめてアニメっぽくもあるキャラクターであると感じました。
おかっぱにメッシュヘアー、リングピアス、三本ラインのジャージ(商標への配慮も見られ、流石です笑)、星のマークのスニーカー、と、上から下まで色白で細身のしな子の姿を舐めるように眺める、なんとも言えない良い気分です(笑)
たまには、ちょっと強めのエロスもいいですね。
申し訳ない、こんなことばかりを書いてしまって。
全て、しな子の色気のせいです。
ファンになりましたね。完全に。
しな子と紗和のシーン、
「全然、似合わない」
と言いながら紗和がしな子のピアスを触るシーン、ヤバいです。
増黒先生の世界は、深い…(笑)
乱文、失礼しました!