紅の炎纏う虚ろな魂は、何を求め生くのか

この物語を読んで、『蓮葉の濁りに染まぬ心もて、なにかは露を玉と欺く』という古今集の和歌を思い出しました。

何物にも染まらぬ、無垢な心。
空っぽに見えて、奥底にはどんな熱にも炎にも曲がらぬ強さを秘めた美しい魂。

ヒロインである丹羽しな子には、悲しい過去と炎を操る能力、それしかありません。
けれど、ただ流されるがままに生きているわけではなく、素直に命令に従い、暗殺業をこなしつつも、彼女の心は確かに動き、生くべき道を見出そうと模索しています。

華麗なるアクションシーンの中にあるからこそ、より映えるしな子の繊細な心理描写。

様々なものを失っても痛みを感じないから強いのではない、失う代わりに様々なものを得、それを守ろうとするから強いしな子の姿には、憧憬以上に神々しさすら覚えました。

紅蓮の濁りに染まぬ心もて、なにかは虚ろの炎と欺かぬ――哀しく切なく、しかし美しく気高い魂が描かれた物語です。

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