この物語に宿ったのは、著者【増黒 豊】の生き方だ。

作者である彼とは、言葉でのみ繋がっている。
Web小説の世界で知り合った、顔も知らぬ人物に一目を置くのは、陰翳礼讃の精神を忘れた、文明の利器が齎す愚行なのかもしれない。

しかしだからこそ、他の方々への感想やコメントからひしひしと放たれる彼の思考や理念の美しさを、常々感じているのだ。

私の想う彼は、端的だ。
気高く、鋭利で、群れる事を好まず、輝いている。
紆余曲折を好まず、眠れぬ夜が在れば、眠れるようになるまで言葉を積み上げるような愚直な男だ。

志操堅固を絵に描いたように、彼はただ積み上げる。自身の衝動を、数多の知識を、乱暴な言葉の数々を、河原の石のように積み上げる。

その行為の難しさも、その行為の美しさも、一度でも物を書こうした事のある人間なら誰しもが知っているはずだ。

その潔さには、魂が現れる。
本作『ウラガーン史記目録』には、増黒豊が現れている。

最後に。
これを言うと元も子も無いのだが、私は歴史小説が苦手だ。
数ある創作物のジャンルの中で、一番足踏みをしてしまうジャンルだと言っても過言では無い。

そんな私が、増黒豊の言葉を待っている。
彼の書く物語と、彼の放つ信念を照らし合わせるように、本作の更新を待っている。
彼の生き方が、どんな生き方を紡ぎ出すのかと、今もこうして待っている。

この拙い書評をお読みの方の中に、もしも「私も歴史小説が苦手だ」という方がいらっしゃるとすれば、そんな方にこそ、本作品を強く強く推薦したいと思う。

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