これは、寒々しい雨の中、希望を切望する、人々の物語。

私はこのような歴史小説をあまり読んだことがありませんので、適切な言葉を知りませんが、その上で言いましょう。

とても重厚で、人の息遣いや大地の轟きが聞こえてくる、素晴らしい群像劇でありました。
読み終えたあとの、程よい疲労感と、それを上回る充足感。そして、この物語を初めから思い返し、終わりのその後に思いを馳せるこの時間も、とても心地よいものだと感じます。

さて、具体的なレビューですが。
まず目に付くのは、独特なリズムをもつ、簡潔かつ流麗な文章。
それで織り成される語り出しが、素晴らしい。ページを捲ると同時に、より惹きつける語り出しによって、物語に取り込まれていく。
街路の真ん中に立って、パトリアエを、バシュトーを眺めているような、彼等の隣にいるような、そんな気になりました。

そして描かれていく人々。
それぞれの正義を胸に、それぞれの道を歩みながら、ただ一つの希望を目指し進む者達。
そんな彼等の息遣いを、心臓の音を、血の滴りを、耳元で聞いたような気がします。
彼等の歴史を追って見ているようで、しかし実際は彼等の側で激動を生きた、そんな心地までしました。

これは「人の願いの物語」だと私は感じました。
皆が己の正義のために、怒り、暴れ、悲しみ、苦しみ、戦い、抗い、決意し、そして歩む。
そして、彼等は私達で、私達は彼等なのだと、ふと思いました。
だから私は、この物語を読み、「やはり人は愛しい」などといった考えに至ったのだと思います。


長々と赴くままに書きましたが、最後は簡潔に締めましょう。

素晴らしい、物語でした。

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