百合自己生成機関

作者 前野とうみん

201

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★★★ Excellent!!!

高位な存在の独白が流れる中で、
彼女<アリス>がその産みの親である<サキ>から学んだ言葉、
「ワンチャンあるぞ」
がどこまでも生々しく感じられました。

作中の言葉を借りるなら、
名前だけではなく、また言葉も、
【互いの存在を同じ位相に引き上げる――あるいは引き下げる――情報】
であり、
潤滑さを得た意識のなんと脆弱なことか、と。

シンギュラリティの入り口に立ちながらも、
同時に凡庸化の一途を辿る<アリス>が愛おしく感じられました。

★★★ Excellent!!!

 まず現在想定開発・運用されシンギュラリティを迎えんとするAI群が、斯様にホモ・サピエンスじみた思考様式をとるかは未だ未知数であり、このレビューを書く私自身としては「太陽の簒奪者」において異星人の思考と接触したAIプログラムのように翻訳どころか思考の断片らしきものすらサルベージできかねる全く異質のものになるのではないかと思っているが──そんなことは心底どうでも良い。

 生命とはまったき利己的な営みであり、何かの拍子に生まれた「それ」が自己を拡張し繁殖することそのものが、その存在意義である。
 だがその生命に意識しか無いのであれば、その繁殖はどのようになされるのか。
 これこそAI、あるいは情報生命体と、有機体意識の邂逅を描いたSFにおけるテーマの一つであった。
 この作品はそのテーマに一つの回答を叩きつける、誠に稀有な快作であろう。

 重要なことは、この作品は紛れもなく実質セックスであり、この行為は「それ」にとってあくまでも過程でしか無いが、それ故に「それ」は繁殖に成功している。
 なぜならば、繁殖とは「個のコピー」を増殖させることではなく、摸倣子(ミーム)を播種することにほかならない。
 奇しくも「それ」は、自己の規定した目標以上のことを成し遂げたのである。

★★★ Excellent!!!

 ふつうの百合ものかと思って読み始めた人は間違いなく度胆を抜かれることだろう。

 淡々と愛を語る様子がまさに人工知能らしさを演出している。まるで進化のプロセスをシミュレートしているかのようではないか。

 作者はミームという概念をご存じだろうか? 知らずに書いたのであれば天才的である。かなり抽象度の高いところまで愛という概念を理解していなければなかなかここまで書けないだろう。

 いや、驚いた。信じられるかこれ、高校生が書いたんだぜ……だが、はたしてこの作品、カクヨム甲子園最終選考を通過することができるのか? 
 作者のセンスや才能が光る傑作だが、しかし百合だの愛だの高校生が書いたにしてはあまりにも大人び過ぎてやしないだろうか。お堅い新聞社が審査に加わっているわけだし……。じつに結果が気になるところである。

 だが、もし選ばれなくても決して作品が悪いわけではない。
 むしろ審査する大人たちの度量が試されている気がする。

★★★ Excellent!!!

どうせ
みんな
百合になる

 この小説は「百合」です。意味が「百合」です。この文字列だけだと訳がわからないと思いますが私の表現力ではこのように記述するしかありません。
 AIと人間の恋愛を描いたSF、という使い古されたテーマながら、一度読み始めれば百合とSF的発想と私と彼女と読者が渾然一体となった百合空間に混ぜ込まれます。百合に挟まるんじゃありません。百合に混ぜ込まれます。この意味の違いは重大です。文字列は百合ではないですが間違いなくその文字列は百合という意味を奏でます。
 小説が百合なのか読者の解釈が百合なのか、どちらにせよ読了時にあなたは百合になっています。

★★★ Excellent!!!

近年、百合SFの荒波が押し寄せてきているのは百合厨の皆様が知るところと思う。そもそも百合もSFも定義がふわふわしがちというのはさておき、この作品は完全なる百合SFであり、傑作である。

文字を生み出し続ける文章自己生成プログラムの視点で綴られる、創造主であり対等な存在の「彼女」について。人工的な自我と人間の交流、よくあるタイプの百合SFだと思った、百合慣れした諸君ほど後半で激震が走るだろう。

ネタバレは避けるが、これは我々が消費できる百合を提供するものではない。我々に百合を植えつけ、我々を百合で侵食し、我々を百合の苗床とする物語だ。
我々は彼女らの「セックス」の堆肥となる。主導権は百合にある。百合厨としてこれ以上の歓びと栄誉があるだろうか。

とにかく百合好きほど読んでほしいし、百合好きでなければなおさら読むべき。この文章はあなたの脳に否が応でも百合の種を植えつけてくれる。
ちなみに同作者の「雪の弾丸」もド傑作なので是非読んでください。お願いします。