これぞ意識系SFというか鬼なったがどこもおかしいところはないな

 まず現在想定開発・運用されシンギュラリティを迎えんとするAI群が、斯様にホモ・サピエンスじみた思考様式をとるかは未だ未知数であり、このレビューを書く私自身としては「太陽の簒奪者」において異星人の思考と接触したAIプログラムのように翻訳どころか思考の断片らしきものすらサルベージできかねる全く異質のものになるのではないかと思っているが──そんなことは心底どうでも良い。

 生命とはまったき利己的な営みであり、何かの拍子に生まれた「それ」が自己を拡張し繁殖することそのものが、その存在意義である。
 だがその生命に意識しか無いのであれば、その繁殖はどのようになされるのか。
 これこそAI、あるいは情報生命体と、有機体意識の邂逅を描いたSFにおけるテーマの一つであった。
 この作品はそのテーマに一つの回答を叩きつける、誠に稀有な快作であろう。

 重要なことは、この作品は紛れもなく実質セックスであり、この行為は「それ」にとってあくまでも過程でしか無いが、それ故に「それ」は繁殖に成功している。
 なぜならば、繁殖とは「個のコピー」を増殖させることではなく、摸倣子(ミーム)を播種することにほかならない。
 奇しくも「それ」は、自己の規定した目標以上のことを成し遂げたのである。