誰かにとっての希望が、誰かの絶望となるということ

男性が女性を愛する時に、もっとも重要なのはその人の「声」である、という主張も一部にはあります。
そうでなくても、愛する人の声というのは誰かにとって特別なものでしょう。
それが、自分だけのものでなくなったら――


作中ではその社会的文明的な意味について深く語られてはいませんが、合成音声「コニー」は確かに世界に福音をもたらしたはず。しかしその裏で犠牲になった「何か」――歴史の中に埋もれた個人の機微を描くSF作品として、そしてSFという枠を超えて訴えかける深遠なテーマ。

普及すればするほど、その絶望は大きくなり、それが「ある一点」を超えることで決定的になる。
これはあらゆる文明、あらゆる技術へのメタファーであるとも感じられます。


アイザック・アシモフの作品に哀愁をプラスしたような、流麗な文章と人の心に迫る怖さ、深遠なテーマを扱った素晴らしい作品でした。脱帽です。

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