抱腹絶倒の(キャンセルされました)

 この作品はゲーマーに刺さる。笑いをもっていく。何せいきなりの「リセマラ」からスタートであるし。

 肝心の部分でドラゴンの成長にランダム性がかまされていたりと、このゲームの開発者は多分かなりのサド野郎にちがいないのだが、そのシステムの中をプレイヤーのミズキとNPCのアアアが走る走る突っ走る。
 作品の何よりの魅力はこの二人の距離感、関係性。ひたすら効率と(裏腹の)特化プレイを追求し、アアアのセリフも、ラスボスの口上もキャンセルキャンセルまたキャンセル。余韻も情緒もあったもんじゃない。オチも最高にひどい(誉め言葉)MMOあるあるで、ゲーム好きには楽しくてしょうがない。

 なのに。なのに。

 アアアの勘違いからゲーマーとして恥ずべきアレを進言したときの、ミズキの態度が何と厳しく優しくてすがすがしいことか!
 
 自分の思惑を根底から粉砕するある事件が起きても、彼女は決して折れず、パートナーを放り出したりもしない。彼女は芯のあるポリシーを貫く、このうえもなく誇り高いゲーマーなのだ。

 ゲーム好き、それも尖った方向性の攻略を楽しむ向きには取り返しがつかないほどに深々と刺さる一篇である。

 そして、その上でなおこの作品は(密かに、ものすごく密かに)きちんと正統派のファンタジーとしての含みを残しているのだ。

 だって、VRMMOのNPCであるはずのドラゴン「アアア」がこんなにも感情豊かにミズキに驚き、あきれ、慕い、翻弄される姿を描いてみせるのだから。

 

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