ゲーマーズ・廃!~効率厨の異世界攻略~

ながやん

第1話「伝説が始ま――(キャンセルされました)」

 ここは、現実から最も近く、確実に存在する異世界。

 そう……仮想現実バーチャルリアリティが生み出した、電脳空間ネットスフィアに存在する『』です。

 その名は、VRMMO『ドラグメイト・オンライン』。

 悪の魔王を倒すため、勇者は竜と旅立つ。

 ボクがこうして待つ今も、ほら……勇者様が!

 光あふれる中、ボクを内包していたやみがひび割れ砕ける。

 卵の中から見上げた勇者様に向かって、ボクはお決まりの言葉をつむいだ。


「はじめまして、勇者様! ボクは――」


 突然、ガシッ! と頭をつかまれた。

 まだ幼生ようせいのボクは、ちょっと大きな猫くらいだ。その頭を片手で鷲掴わしづかみにした挙句あげく、勇者様はボクの話すメッセージをキャンセルした。

 目線の高さに持ち上げられて、じっと睨まれる。


「あ、あの、勇者様。はじめま――」


 ガン無視、またメッセージをスキップされた。

 そして、目の前の美貌は瞬きも忘れてボクを見詰めてくる。

 長く綺麗な黒髪に、整った顔立ち、そして白い肌。まるで太陽と月を並べたかのような、左右で違う色の綺麗な瞳。その双眸そうぼうに今、情けないボクの顔が映っていた。

 このゲームはプレイヤーの容姿がキャラクターにそのまま反映される。

 だから、現実の勇者様は相当な美人だ。

 だが、ニヤリと笑った彼女の声は妙に攻撃的で、そのうえ目がわっていた。


「おしっ! 通算214回目、屈折8時間! リセマラ完了っ! じゃあ、行こうか……アタシの伝説のために!」


 そう、

 なんていうか、完璧にトリップしたような目……赤い右目も金色の左目も、どちらも覗き込めば奈落アビス深淵しんえんのように暗く輝いている。炯々けいけいと、爛々らんらんと。

 ボクをそのまま片手で持って、勇者様は歩き出した。

 他にも手続きはあるし、チュートリアルだってある。

 なにより、ボクに名前をつけてもらわなきゃ。


「あの、初めての勇者様は冒険のための手引を――」


 またキャンセルされた。

 全くメッセージを聞いてもらえない。

 それどころか、出発地点である【竜巣りゅうそう神殿しんでん】を出るなり、そのまま勇者様はズンズカ歩く。武器屋は? というか、神官様に話しかけて軍資金を受け取らないの? あっ、あそこの行商人はミニイベントで……って、街を出ちゃった!?


「えと、勇者様! あ、んと……名前です! ボクに名前を――」

「アアア!」

「へ? ……えと、名前」

! アタシは急いでる! あと、初めてじゃないからいらんメッセージはスキップする。極力しゃべるな、そして邪魔をするな。気が散る」


 ……ええーっ!?

 ボクの名前、『アアア』なの!?

 驚きのあまり、ボクは固まってしまった。

 勇者様はボクを片手にどんどん進む。あの、初期装備で大丈夫ですか? っていうか、レベル上げとかしないの? さっきの街で情報収集やクエストの受注は?

 ボクがオロオロしてると、くさった魚みたいな目で勇者様は歩きながら見下ろしてくる。


「いいか、アタシはとにかく急いでいる。一度しか言わないからよく聞け」

「は、はいぃ!」

「お前はアタシが昨晩からねばってゲットした、初期ステータスの合計値が最も高いドラゴンだ。お前が出るまで、アタシは延々えんえんリセットとデータ初期化、ゲーム開始を繰り返した」

「は、はぁ……お疲れ様です」

ほこれ! よろこべ! お前はアタシに選ばれたエリートドラゴンだ。初期ステ合計が最高な上に、さらに厳選げんせんを重ねて攻撃力POW瞬発力AGIが一番いい個体だ。わかったか、アアア!」


 あ、ボクって凄いんだ……

 でも、なんで急いでるんだろう。


「その上、お前は地属性の【ストーンドラゴン】だ。育つとサポート系の【フォレストドラゴン】と、物理最強の【ジュエルドラゴン】に派生する。さらに最終的には、【アースドラゴン】、【クリスタルドラゴン】、【グラビティドラゴン】……あとまあ、ハズレの【アーマードラゴン】になる」

「は、はい。そうです! 気を取り直して……勇者様、この度はボクを選んでくれて――」


 またスキップされた!

 でも、どうやら勇者様はベテランプレイヤーみたい。

 鋭角的えいかくてきな動きで、一歩の無駄もなく荒野の街道を進む。まるで、見えないレールの上を歩いているみたいだ。しかも、超早足だ!

 怖い人かな? って思った。

 でも、見上げる勇者様の顔は、饒舌じょうぜつになるほどきらびやかに輝く。

 ゲーマーさん、かな? きっと、ゲーム大好きなんだろうな。

 一生懸命、いかにボクが優れたドラゴンの幼生かを、嬉しそうに説明してくれた。


「本来最強を目指すならば、地属性ではなく光属性……【ライトドラゴン】から【スタードラゴン】を経て、【コスモドラゴン】を目指すのが定石セオリーだ! だが、【スタードラゴン】の派生四種は、【コスモドラゴン】以外は三つともハズレだ! 話にならん!」

「そ、そうですかぁ? ボク、どれも使い方によっては結構強いと思――」

「あまり話すな! スキップするのが疲れる! 【ストーンドラゴン】から【ジュエルドラゴン】へは自分で選べる。そして、その先の上級四種へはランダム! だが、地属性のドラゴンならアタリが3でハズレが1! 確率は4分の3だ!」

「そ、そんなぁ」

「そして、確かに最強は【コスモドラゴン】だが、【アースドラゴン】は四強の一角だし、【クリスタルドラゴン】には水晶すいしょうハメコンボがある。【グラビティドラゴン】も十分強い。だから、地属性だ! それを踏まえて、吟味ぎんみに吟味を重ねた個体、それがお前だ!」


 えっと……時々いる。

 ゲーム内の結果や数値、効率に凄いこだわる人。

 それも確かに面白いんだけど、もっとこう。

 って、勇者様!? あ、あれ! あれ見てください、気をつけてくださいっ!


「ん? ああ、モンスターのエンカウントか。よし、伝説を始めるか!」


 一番弱いモンスター、【ブルースライム】だ。

 ぽよんぱよんと跳ねてる流動体どろどろは、危険な敵意を向けてくる。

 よし、勇者様のために頑張らないと! 今こそ協力して戦い――!?


「あのっ、勇者様!? ボクを使っ――」

雑魚ザコはすっこんでろぁぁぁぁぁ! だらっしゃあああああ!」


 絶叫と共に勇者様は、初期装備の【青銅せいどうつるぎ】を抜き放った。

 勇猛果敢に【ブルースライム】に飛びかかっていく。

 ――このボクを放り捨てて。

 小さな翼でどうにか浮き上がったボクは見た……反撃を受けつつも、あっという間にモンスターを片付けてしまう勇者様を。それは全く無駄のない、洗練された動きだった。


「よしっ! やはり初期装備でも二発当てれば倒せる! こっちのHPも減るが、次の村まで十分に持つ……計算上、最短で進めば残るエンカウントは3回、多くても4回!」

「勇者様ぁ、もっとこぉ……焦らずいきませんか? 一度さっきの街に戻っ――」


 はい、スキップされました! メッセージ聞く気ありません!

 でも、勇者様は美少女なのに仏頂面の無表情、そして濁りきった目で振り返った。


「よく聞け、アアア! アタシの名はミズキ! このゲーム、『ドラグメイト・オンライン』の!」


 そう言って勇者様は……ミズキ様はボクの頭をガシリ! とまた掴む。

 そのまま再び歩き始めたミズキ様には、覇気がみなぎりまくっていた。

 こうしてボクの、波乱万丈はらんばんじょうな旅が始まっ――


「喋るな! 考えるな! 呼吸以外するな、行くぞ!」


 ……ボク、これからどうなるんだろう。






・総プレイ時間〈00:15:42〉……No Save a Go Go!!

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