生活の中で感じた、心へのひっかかり。ある出来事を契機にして、それらを思い出すことはままある。
なぜ蘇るのかというのはとても単純で、不満や快楽、羨望などといった心を掻き乱すものに、人間は良くも悪くも魅了されてしまい、それを追い求めるからだろう。
この作品では、蝉の鳴き声を聞いた時でも、手についたアイスを舐めとった時でも、ましてやアイスを齧った時でもなく、自転車に乗ったおじさんに「邪魔だ、どけ!」といわれたのを契機にして主人公は思い出す。
そして、最後に残されるのはアイスの棒。それと、ひとりぼっちの自分。
言葉には一言も現れないけれど、主人公が買った五本入りのアイスや、切符ほどの大きさの切れ端というアイテムから、孤独というものをひどく繊細に心に留めているのでないかと私は感じた。
そう考えてもう一度最初から読んでみると、アイスのように冷えてしまった心と、温かい心でそれを溶かそうとする主人公の葛藤のようなものが見えるような、そんな気がする。
夏、日が落ちるのが遅い。
太陽が長く射し込んだアスファルトが熱を保ち、夜道にも汗が染み込んでいく。
主人公がコンビニで買った練乳アイス。5本入りのそれを一つつまみ......
ダメだ。本作の文章を真似してレビューを書こうとしたが、難しい。
別に真似する縛りは無いのだが、やってみたくなった。自己中な私だ。
本作。写真のように切り取った風景描写ではなく、流動的な描写。
瞬間を詳細に表現しているというのに、時間はゆっくりと繋がりを持って流れてゆく。
不思議と引き込まれていた。
親指はゆったり動き続け、気づいた時には読了。
そして、えも言われぬ感情を私の心に残した。この感覚、悪くない。
いや、私の好みだ。作品の雰囲気含め。
読みだしたら、止まらない。
このレビューを読んだあなた、さぁ、読みに行くんだ。
しかし、このレビューで本作の良さが伝えきれないのも、自明であること。
読みに行くか迷うのであれば、他の方のレビューを読んで欲しい。
私の力量不足で本作が読まれないことは、何としても避けたいのでね。
暑さ、もどかしさ、苛立ち…情けなさ。
そして、やっと辿り着いた冷たさ、甘さ。…そして、甘さの中の懐かしさ。
暑くて、コンビニへアイスを買いに行き、部屋へ戻って来て、アイスを食べた。
——ただ、それだけなのに。
普段触れていながら無意識に流し去っている様々な感情が、この短い作品の中にぎゅうっと詰められ、具に観察され、不思議な味わいを持ってしっくりと収まっています。
読み終わった後の、不思議な満足感…これは、本作を読んでみなければわからない、なんとも不思議な感覚です。
気づけばぐいぐいと引き込まれる、独特な世界観。そんな、深く魅力的な味わいの短編です。