レビューになるだろうか。柊の世界はやはり基準がセピアにある。そこへ、訪れる、鮮明な〝なにか〟。音、もしくは色、もしくは動き。その〝なにか〟が、読み手のfpsを否応なく変化させていく。引きずり込むその手腕・手管が、なんの手法でもなく、ただナチュラルな柊の世界観であるゆえに。否応なく、引きずり込まれていく。
色、匂い、雰囲気などを丁寧かつ自分の世界観として引き出した作品。懐かしい子どもの記憶と大好きだった祖父を思い出しました。
恋愛小説の得意な作者様が描く、心温まる物語。鍵になるのは、題名にもある「萩」である。主人公は迷い込んだ世界で、様々な人々と出会う。そこに現れる沢山のドア。主人公が辿り着いたドアの向こうには――。 一つ一つ大切に、色々なことを教えてくれた人。 主人公のために、ラムネを準備してくれたこと。 母に怒られた主人公を、優しくなだめてくれた人。 その全てが愛おしかった。楽しかった。 忘れてはいけない。忘れられない。大事な人。 あなたもきっと、自分の大切な人に会いたくなる。 そんな物語。 是非是非、ご一読ください。
祖母の記憶という誰もが胸に抱くノスタルジーが香り高いポエジーと共に大事に埋め込まれている作品。祖母とは夢の中ですら最後まで会えない。鼻緒の足指の痛みは酷くなり、恋しさやもどかしさも強くなる。あったはずの優しさに触れる術はない。それでもその人がいた事は確かに刻まれていた。今はいない人を想うということ。その人から貰った想いを沢山の思い出と共に忘れないということ。大事なことを思い出させてくれる珠玉の短編。
懐かしくて温かい。でもどこか切なくて、苦しみや痛みもある。そんな遠い夏の記憶を、ぐいぐいと引き込む文章で綴っていきます。読みながら自分も一緒に夢で記憶を辿っていました。
夢から目を覚ました「私」と祖母をつなげるお萩。 お萩の甘さと柔らかさが、「私」にとっての「穏やかなお祖母ちゃん」なのだろうなと感じました。 読後…… 日頃は忘れている祖母への想いや、祖母自身を思い出させたのは曼珠沙華か? 「摘んじゃいけないよ」と曼珠沙華自身の言葉を祖母(多分)の口から言わせたかのように印象に残りました。
とても静かで、仄暗い。作品冒頭にあるこの一文が、この作品の魅力を全て言い表している――と、最初に思ったことがそれでした。手を伸ばすのに届かない、確かにあるはずなのにどこにもない。そんな誰もが体験したことのあるもどかしさを、きっとこの作品を通じて読者は思い出すことになるのではないでしょうか。
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