恋のゆくへは単方向だからこそ美しい

 すれ違う想い、大切な何かが少しずつ歪んでしまう現実。個性的な登場人物たちがそれぞれが抱いている感情、そんな情景が複雑に交錯していく物語は、読んでいて切なくもあり、その矢印の行くへはどこに向かうんだろう、と読み手の心を揺さぶっていきます。

 本作のタイトル「シンプレックス」から連想されるのは、想いや感情の双方向性と言うよりは、むしろ単方向性に垣間見る情景の美しさ。それぞれの“やじるし”は結局のところ、単方向でしかない。だがしかし、単方向だからこそ、大切な存在に気づくことができるのかもしれません。双方向では見失ってしまうものが確かにある……。一見すると逆説的なテーマではありますが、それこそがこの物語の奥深さをもたらしているように感じます。

恋のゆくへは単方向だからこそ美しい。

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