学ぶきっかけは、むしろ学びとは関係のないところにある!

 『落ちこぼれであるかどうかは、周りが決めることじゃない。あなた自身が決めたこと』

 とっても素敵なセリフだなぁ、と思いました。学ぶきっかけは、むしろ学びとは関係のないところにある、そんな風に思います。

 哲学と言うと、簡単なことを難しくする学問なんて思われてしまうこともありますけど、そうではありません。やや硬い言葉で言えば、哲学の目的は難解な思想にふけることなのではなく、目の前の問題の、実際的な解決を目指すために、より優れた思考原理を構築することにあると言えます。

 つまり、この世界に当たり前に存在すると思われているようなものを突き詰めて考えたとき、そこに浮き上がる違和感に対して、どう近接してくか、その考え方の理路を作り上げていく営みが哲学と言えるかもしれません。

 と、ついつい哲学のお話をしてしまいましたが、本作品は哲学入門としても読めたりします。もちろん小説としての完成度も高く、リズムカルに展開されていく物語構成は、読者を飽きさせません。登場人物の心情や風景描写も丁寧で読み応えがあります。

 どれだけ物知りであるか、というのはそれほど重要なことではありません。大事なのは、どれだけ優れた考え方の理路を構築できるか。哲学を学んだ主人公、天野君の成長ぶりに、ラストはちょっと涙です!

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