カンパニュラのせい


 ~ 六月十五日(木) 一時間目 二十センチ ~


   カンパニュラの花言葉 おしゃべり



 昨日の大成功を受けての恩赦か。

 それなりの距離に席を戻してくれた、藍川あいかわ穂咲ほさき


 そんな彼女は久しぶりに大変な事になっている。

 髪がどうとかではなく、カンパニュラが上から生えた教会のオブジェを頭にかぶっているのだ。


 さっきから教会の釣鐘、つまりカンパネラの音がうるさい。


 バカ以前の問題だ。



「でね……、なの。それで……、なったの」


 いつものようにドラマを見逃した俺にあらすじを説明する穂咲。

 心象表現がポイントという話だったらしく、さっきからしゃべりっ放しだ。


 劇団員が放置されたままで可哀そうです。


「いつも言うようで申し訳ないのですが、授業中ですので静かになさい」


 りんご~ん


「バカ~ん! 頷くな!」


 先生からにらまれたけど、おとがめ無しだった。


 そもそも、バカ丸出しなかぶり物を見た瞬間に、怒るのも諦めた感じだったし。


「あれ?」


 穂咲が何かを探しているようだ。

 やめんか、またりんごんするっての。


 俺は口を開くことなく、目で聞いてみた。

 どうした?


 すると穂咲は人形を順番に指差して、最後に何もないところで指を止める。


 ……なるほど、一人キャストが足りないのか。

 赤黒消しゴムでいいじゃん。


 俺がベテラン俳優を指差すと、穂咲はりんごんギリギリの辺りで首を横に振る。


「あれは月なの。重要なの」

「さすがにそれは無茶です、監督」


 まあ、いつぞやのかき氷よりはましか。

 ……あ、そういえば。


 消しゴム繋がりで思い出した俺は、ポケットに入れたままにしていたプラネット・アースを机に置く。


 すると穂咲は、ぱあっと笑顔になって、ロボを指差した。


「あ! パネッスだ!」

「ひでえ記憶力だな! お前が言いたかったの、これだったの?」


 りんご~ん


「…………さて、どっちが立っておく?」

「ずっとおしゃべりをしてたのも鐘を鳴らしたのも穂咲ですが、どうでしょう」

「じゃ、秋山が立っとけ」

「くそう絶対におかしい。お前は先生の言ってる事、正しいと思うか?」


 りんご~ん


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