アジサイのせい
~ 六月十四日(水) お昼休み 九十センチ ~
アジサイの花言葉 団らん
とうとう窓際の通路をふさいでしまった
お昼休みになれば、どれだけ不機嫌であろうとも教授としての責務を全うする。
そして髪の方も、プロによる最高傑作。
頭全体がアジサイそのもの。
今世紀最大級のバカ、爆誕だ。
「それ、超新星アストロファイアのことか? 話せるねえ秋山!」
「そうそう。ロボがかっこよかった。懐かしいな」
「俺は未だに好きだぜ。筆箱にロボのキャラ消し入ってるし。ほれ、一つやるよ」
「これ、主人公機のプラネット・アースじゃん! いいのか? おお、かっけー!」
男の会話というものは、高校生になっても小学生の頃と変わらない。
それは、ごく当たり前のことだ。
だが、昼休みだというのに教授以外の人と会話していることは珍しい。
これは教授が目を回しながら次々と玉子を焼いているせいだ。
会話なんかできん。
そう、今日は目玉焼きパーティー。
満を持しての開催です。
参加者が持ち寄った玉子を焼いて、紙皿で提供。
やたらと重いスポーツバッグを引っ張り出して、調味料も万全だ。
蓋も使わずつやつやになる穂咲の目玉焼きには、誰もが舌鼓。
至る所から聞こえる称賛に、俺も穂咲もいい気分。
だが題目が目玉焼きである以上、この問題が発生する訳で。
「うそ? 醤油の方が一般的だろ?」
「いやいや何言ってんの! ソースの方が普通だろ」
定番のこれが一か所で始まると、それがあちこちに飛び火する。
我々が生物である以上、抗うことのできない本能。それが目玉焼き論争だ。
タバスコで食う奴もいるらしい。
まあ、分からないでもない。
あんこを乗せると美味い?
まあ、分からんでもないが、それを男子が言うな。
そんな騒乱の中心に歩を進める穂咲。
アジサイの化身が皆の争いを止めるべく、今、高々とフライパンを掲げた。
「聞け、諸君! 目玉焼きは、しょせん目玉焼き! たった一つの小さな黄身と、それを取り巻くただの白身を食すに当たり、諸君は何を誇るのか! 何を守るのか! こんな小さなものの為に争うな! 私がいくらでも焼いてやる! 諸君らの境界を越え、国境を越え、世界が目玉焼きの
『うおおおおお! ノーボーダー!』
『目玉焼き、ばんざーーーーーい!』
……バカなことになった。
だが、ノーボーダー。素晴らしい。
この空間が、団らんという世界に変わった。
そして世界を一つにまとめあげた人類史上最高の英雄が、俺に皿を運んでくる。
「はい! ロード君の分なの! 召し上がれ♪」
「タバスコとあんこの国境は消すな! まざっとーるやないけ!」
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