ダリアのせい


 ~ 六月五日(月) 二時間目 十センチ ~


   ダリアの花言葉 移り気



 おとなしい性格に優しいタレ目。

 なのに、見た目がとにかく派手。


 そんな藍川あいかわ穂咲ほさきのことを、俺は好きでも、嫌いでもない。

 幼馴染ってそういうもの。



 だが、可愛いとは思っている。


 特に、凄腕のスタイリストとして活躍していた過去を持つおばさんの趣味と、実家の花屋の宣伝とを兼ねた穂咲の髪。

 花のインパクトに騙されがちだが、それはそれは可愛いのである。


 今日はルーズに結った、お団子と編み込みの中間のようなアップ髪。

 ゆったりと癖をつけた前髪が頬にかかっているのも素敵です。


 ……が。


「今日のダリア……、絶対に迷惑と思うの」


 その頭上に、十センチを超えるポンポン咲きのダリアの大輪が三ヶ。


 確かに迷惑。


 俺が穂咲の後ろに座る神尾さんに目線を送ると、苦笑いを返された。


「今日はちょっとだけ……、黒板が見づらいかな?」

「はうっ!? ご、ごめんなさい!」


 これ穂咲さん。後ろを向いて謝りなさんな。

 ダリアが神尾さんに襲い掛かってますから。


 仰け反って避ける神尾さん。

 その隣の席から、紳士な岸谷君が声をかけてきた。


「読めないところは僕のノートを見るがいい。さあ、どうぞ」


 なんとかっこいい。さすがはクラスの王子様。

 感心する俺の袖が、横から引かれる。


「ねえねえ、岸谷君、かっこいいの!」


 凄いね。ちゃんと男性を中身で評価するのは素敵な事だと思うよ。

 岸谷君、ルックスにさえ目をつぶれば男の俺ですら惚れてしまいそうになる。


 そんな彼についたあだ名は、目を閉じればそこに王子様。


 ……穂咲の様子に、不安なんて感じない。

 だって俺は、穂咲のことを好きでも嫌いでもない。


 でも、次の休み時間に机を三センチくらい近付けておこう。


「藍川さんも気にしないでいい。さあ、授業に集中したまえ」

「ほわぁ…………。あ、あいっ!」


 穂咲の目が、今にもハートマークになりそうだ。

 岸谷君もそれに気付いたのか、去り際にさりげなく口説き文句を置いて行った。


「お花、自分で活けてるんだろ? いつも可愛いね」

「ごひん! …………ぶくぶくぶく」


 ……うん。一般的にはいい口説き文句だと思うよ。

 でもそれ、こいつの地雷。

 すごく嫌なのに断れないだけ。


「さっきからうるさいぞ藍川一味! 代表して花を咲かせてるやつが立っとけ!」


 あわれ、撃沈した穂咲は、机という名の海に沈んで泣いている。

 仕方が無いので、俺はダリアを自分の髪に挿しながら、皆を代表して席を立った。


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