かすみそうのせい
~ 六月一日(木) 一時間目 十七センチ ~
かすみそうの花言葉 親切
昨日の一件で、二センチ遠ざかった机に腰かけるのは、臆病で優しい
軽い色に染めたゆるふわロング髪のお団子一面に、かすみそうが咲き誇る。
今日もバカ丸出しだ。
「あ」
「…………どうかしたの? 忘れものなの?」
「いや、昨日のドラマを見るの、忘れただけです」
「あたしが
「だからやめなさい、授業中です」
慌てる俺の制止も聞かず、窓際、一番前という先生の死角で無声映画が始まった。
頭から抜いた一輪のかすみそうが、白い消しゴムに寄り添う。
ああ、これは先週の終わりのシーンだな?
プロデューサーなる人物に才能を見出されたヒロインが芸能界に足を踏み入れるという展開だったっけ。
でも、どこか
穂咲は、消しゴムをマジックで黒く塗り始めた。
大ピンチ。
続きを促すために目線を送ると、能天気な映画監督は、ぱあっと笑顔を浮かべて鞄から白いナイトのコマを取り出した。
これは……、未だヒロインに思いを寄せる元カレ?
アイコンタクトで確認を取ると、小さな頷きが帰って来る。
さすが幼馴染。
だが次のシーンで、危うく声を上げそうになった。
なんと白いナイトが、手にしたカッターを振るって黒い消しゴムをばっさり切ってしまったのだ。
見る間に赤マジックに染まる悪徳プロデューサー。
その血が机まで赤く染めていく。
穂咲の熱演に、思わず小さく拍手。
あらすじは大体わかったよ。
今後の波乱は気になるけど、ひとまずピンチは脱したな。
さて授業に集中だ。
そんな俺の肩をぺんぺん叩く十五センチものさし。
なんだよ、まだ続くの?
「って、ナイトが黒い駒になっとる! 元彼にいったい何が!? 大波乱の次週をお楽しみに!」
「騒がしいぞ秋山道久! ……いや、遊んでいたのは藍川穂咲か?」
穂咲が席を立とうとしてくれたが、そういう訳にはいくまい。
「すいません、俺が遊んでました」
「じゃあ秋山。立っとけ」
そんな顔しなさんな、監督。
面白かったよ。
それに親切でしてくれたことですしね。
俺は、穂咲の頭に揺れるかすみそうを幸せな思いで眺めつつ、今日も席を立った。
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