最終話 秋山のせい


 ~ 六月二十日(火) 六時間目 1センチ ~



 好きなのか、はたまた嫌いなのか。

 いつからだろう、俺は考えるのをやめた。


「で、今日の髪は自分でやったのか」


 ぴったり。から指一本分離れた机に腰かけて、満面の笑みで頷くこいつは藍川あいかわ穂咲ほさき

 軽い色に染めたゆるふわロング髪。


 それが今日はひどい。

 ほんとにひどい。


 強引にまとめた髪がずるっと崩れて、半分ぐらいが完全にほどけてますし。

 どう見ても役に立ってない髪留めがいくつもいくつもぶら下がってますし。


 きみ、ほんとに女子?

 いや、えへへへじゃなくて。


 そんな穂咲の頭に、色とりどりのカーネーション。

 カーネーションの花言葉は色によってさまざまだ。


 穂咲が、ニコニコしながらピンクのカーネーションを指差している。

 『感謝』ね。ああ、気にするな。


 次にオレンジを前に出す。

 『感動』? 大げさな。


 最後は青か。

 『永遠の幸福』だったな。

 さすがにそれは言い過ぎ。


 しかしよく集めたね、これだけの色。

 黄色まで混ざってるけど、それ、『軽蔑』。

 嫌がらせか?




 俺は席を立って、穂咲の頭から花やら髪留めやらを外した。

 そして指で髪をいた後、つむじの辺りで柔らかめに結い上げる。


 おばさんと同じ、できたよの合図に両肩をポンと叩くと、手鏡を覗き込んだ穂咲の顔が花のように、ぱあっと輝いた。


「なんで? 道久君、凄いの!」

「お前は花屋もヘアスタイリストも才能ない。でも、世界一の目玉焼きニストには必要ないからそれはやらないでいいさ。その二つは、俺が勉強してるから」

「……なんでなの?」


 うーん、鈍感な子。

 俺は腹いせに、一輪だけ花を突き立てた。


「いやーーーー! これ、いらないの!」

「お似合いですよ、お客様」

「…………ほんと? それならいいの」


 ああ、それがないと穂咲じゃないよ。

 帰りに病院行こうな。退院の手伝いだ。


 その髪を見たら、おばさんは喜んでくれるよ。




 赤いカーネーション。


 花言葉はもちろん、『母への愛』だ。




 おしまい






「…………秋山。今が授業中だってこと、分かってるのか?」

「ええ、だからこうして、立ってるじゃないですか」


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「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 如月 仁成 @hitomi_aki

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