物を貯め込みすぎた老婦人の家を片付けていく物語
ゴミ屋敷は人生そのものであり
物を整理するとともに過去を振り返り、家がすっきりと明るくなるのと同時に人生も明るくなっていく
この構図が分かりやすく美しい
そして「プロフェッショナル・オーガナイザー」という「片付けの専門職業」が登場しているのも日本語の小説では珍しく新鮮な設定。単に「おぼあちゃんを救う」という感動秘話ではなく、より客観的かつ適切な距離感が心地よい。主人公は依頼を受けた立場であり、親愛的でありながらも自分勝手な判断で老婦人の心に土足で踏み込んだりはしない。
これらに加えてイギリス在住の作者さまだからこその、リアリティのあるイギリスの空気感・豆知識の数々も魅力的。
物語として品があり、読後感がなんとも素敵な作品です。
別作の短編「砂糖はいかが(以前は違うタイトルだったような…)で初めて赤坂氏の作品に出会いました。大英帝国時代の貴婦人方の茶会の遣り取りを題材にした短編ですが、当時の英国事情に関する深い洞察が伺えます。
本作品も期待して読み始めたのですが、裏切られません。今度は、第二次世界大戦を引き摺った20世紀末の英国です。
作品タイトルは、読了すると膝を打つのですが、これだけでは内容を連想できず、それが少し悔しい。
ゴミ屋敷物語です。
ゴミ屋敷を扱った作品をカクヨムで他に1つ読みまして、MIKA氏の「ある日ゴミ屋敷の住人が死んだ」です。読み比べてみると面白いですよ。
MIKA氏は「何故、ゴミ屋敷に転落したか?」に焦点を当て、本作品は「如何にゴミ屋敷から脱却したか?」に焦点を当てています。個性の差ですね。少なくとも、私には赤坂さんの路線でアプローチできなかっただろう、と断言できます。悔しいですけどね。
それと、若い年齢層の方には通じませんが、終盤で往年のアニメ「みなしごハッチ」と同じパターンを踏襲しているんです。パクリじゃないですよ。これは一種の黄金律なんです。ネタバレ回避のために詳しくは書けませんが、キーワードは「みんなで…」。
お奨めです。
個人的な信条では、短編の合格点は星2つ。気に入れば星3つです。ところが、長編の合格点は星3つ。カクヨムでは星4つを点けれません。ですが、心情的には本作品に星4つです。
こういった投稿サイトでここまで純文学な純文学作品はあまり見た事がありません。
もう導入の時点で風景描写が綺麗なんですよね。こういった作品は名作が多いので読み進める事にしました。
わかりやすく言うと本作品は『ゴミ屋敷掃除物語』なのですが、作者の表現は決して汚らしい物ではなくむしろ素敵な情景描写によって話を進めています。
読み進めて行くうちに準ヒロイン? とも言うべきゴミ屋敷の住人が憎たらしくてしょうがなくなるのですが、それはページをめくるにつれて感動といとおしさに変わる事でしょう。
芥川賞作家朝吹を彷彿とさせるようなこの作品。
イギリスの人が『きことわ』を書くとこんな感じになるのかな、等と思いながらも小説の定石を踏み、しかも目新しい本作は純文学好きにはたまらない作品だと思います。
また文学作品にありがちなバカを置いて行く、が本作品にはありません。私の様な学の無い人間を置いて行かない様にちゃんと注釈がわかりやすく文末に書かれています。作者の方の優しさや気配りが嬉しいです。
その為小説あまり読まない方から読書好きの方まで幅広く楽しく読む事が出来ると思います。
特に素晴らしいのがエピローグ。
これがダメだとどんなにいい小説でも全部台無しになってしまうのですが本作は良作の見本、とも言うべき終わり方をしています。
土曜日の午後、紅茶でも飲みながらゆっくりと読みたい。
そんな一作です。
少ない語彙録では到底表せないような生きた物語を感じました。
世に溢れる、ふわっとした内容と主人公を強調して周りの人物が引き立て役か人形のようなラノベではなく(現実逃避的な読み物としては良いですが)
重厚感のある緻密な設定に豊富な知識量で裏付けられた歴史、登場人物一人一人の生きた感情。
そして人の心とゴミ屋敷。
うーん。なんといっても読了感が素敵です。深い。
この飽和社会、買う事はボタン一つでも捨てる事は苦痛です。思い出が付属すればするほど、我が身を切るように感じます。
他人から見れば須らくゴミ(他人にとってゴミ屋敷の人間とは同じ人間にも見えていない)ですけど。
そして高齢になればなる程捨てる体力も仕分ける気力も無くなる。
そんな時、強制撤去ではなくて主人公がいてくれたら、
そう思う内容でした。
突然ですが、整理と整頓は違うものだということをご存じですか?
整理は、要るものと要らないものを分けること。整頓は、要るものを正しい位置に片付けること。これをごちゃ混ぜにすると、物の片付けが巧くいかなくなるんですよ。
……という話の前の段階で、何かが狂ってしまったらしい、レディ・ミルドレッド。
彼女の家は模範的ゴミ屋敷で、服も食料も、埃もネズミもキノコも思い出も、何もかもが詰まっている。
その一つ一つを解きほぐすのは、お片付けの『プロ』マキカ。そして彼女の今までの人生を支えてきた人たち。
次の毎日に向かって、皆が大切な「要るもの」を救い出す物語がこちらです。
さあ、どうぞ。
とびっきりオシャレな文章に誘われるままに、お片付けの極意と人の優しさに触れてきてみませんか?
イギリスの小さな町に住む日本人マキカは、「お片づけ」依頼を受ける。
80歳のミルドレットの家は、途轍もないゴミ屋敷だった。
行政が強制的に全部捨てる前に、片付けることはできるのか?
マキカはプロフェッショナル・オーガナイザー。
掃除、ではなく、依頼人が家を片付ける手伝いをする仕事。
翻訳物のような、ユーモアたっぷりの文章で綴られる英国の暮らしはとても素敵。
口の達者なミルドレットとのやりとりや注釈は、読んでいて笑えます。
西暦2000年、という舞台は現代に思えますが、ジャンルは「歴史・時代・伝奇」。
片付けの過程で、少しずつ明らかになっていく、ミルドレットの人生。
ミルドレットが物を溜め込むようになったのには、わけがある。
サンディたちが、ミルドレットを助けたいと思うのにも、わけがある。
『呪い』を発見した瞬間の、マキカの怒り。マキカ自身の人生も垣間見えます。
(この物語の本筋ではないですが。)
若きミルドレッドが、サンディと父親に対して言う
「この国の歴史で初めて~」
という言葉は、すごく重い。
連載中、ずっと更新が待ち遠しい作品でした。
有難うございました。
家政をオーガナイズする女性のお仕事ストーリー。主人公はいわゆるゴミ屋敷問題の解決屋さんです。日本ではこうした業務は精神保健福祉士などが従事するのですが、単なるワーカーではなく、依頼者の人生の立て直しを図る仕事でもあります。身内が近い仕事してるので、どんなもんかなと思って読んでみました。
主人公が偏屈に見える依頼人と仕事を通じて徐々に打ち解けて行くわけですが、とにかくまずは雑学的な要素が面白くてたまらないです。職業の特色ももちろん、舞台がイギリスなんですが、へーこんな習慣があるんだ、というのもあれば、あーどこの国も一緒だなあ、とも。
加えて主役のマキカさんと依頼人ミルドレッドの口には出さないが顔と仕草にハッキリでているメリハリの効いた心理バトル。年齢相応の心情描写もあればコメディのような掛け合いもあり、笑いと涙がふんだんに盛り込まれてます。そして屋敷にうず高く積もったゴミの山はイギリス史の一部を切り取ったような様々な依頼人の背景に関わっており、前述の英国描写にもう一段深みを与えています。
ミルドレッドのゴミ屋敷が出来上がった理由が徐々にわかっていくクレッシェンドにもワクワクしました。一人一人にドラマがある、細部にまで行き届いた構成力も魅力的です。
とにかく文句なしです。大好きな作品です。多少の直しは入るかもしれませんが、商業でも通用しそうに思います。作者が時折悪ノリして出してしまう地の文に組み込まれたユーモアも絶妙。様々な角度から楽しめる傑作でした。
プロフェッショナルオーガナイザー、という初めて聞く職業。
西暦2000年のイギリス北部の田舎町なんて馴染みのない場所。
噂によれば翻訳ものっぽい雰囲気らしく、実は苦手な文体。
こんなんで読めるのか? と思っていたけど見事にハマった。
イギリスの歴史と文学作品への造詣が極めて深く、現地に住み、
生の言語と文化に接してきた著者でなくては書けない作品である。
洒脱な文章は軽妙で、そ知らぬ顔をして織り込まれたユーモアに、
思わず噴き出したり膝を打ったりしてしまう。何かすごい。
かっちりして上品な老婦人ミルドレッド、御年80歳は、
その外見に似つかわしくない「溜め込み」癖がある。
初めはミルドレッドを理解できないマキカだったが、
次第に老婦人が心に秘めた悲しみの存在に気付き始める。
2000年における汚屋敷お片付けを物語の主軸としながら、
1940年代の回想が差し挟まれて老婦人の人生が紐解かれ、
また同時に、イギリスという国の現代史が語られていく。
戦争の記憶を埋没させてはならないと、改めて感じた。
たかがお片付け、されどお片付け。
ゴミに埋もれた思い出を拾い集め、
老婦人の心は解き放たれるのだろうか。
マキカの心は解き放たれるのだろうか。
イギリスに住む日本人の主人公が、知り合いに掃除のサポートを頼まれる。
その仕事は、「プロフェッショナル オーガナイザー」と呼ばれるもの。単なる片付け屋ではなく、依頼主に寄り添い、依頼主が自らの手で片付け、その状態を維持していけるようにサポートする役割。
まず、そんな仕事があるということに驚きました。ぜひ、私の家にも来てほしいです!
そして、主人公が依頼されて訪れたお宅は、きっちりと往年のイギリス女性スタイルに身を固めた隙のない高齢女性。しかし、彼女の自宅はごみ屋敷になっており……。
主人公が、依頼主と親交を深めながら丁寧に会話を重ねて片付けを進めていく様子はとても好感が持て、そして人と接するということの本質を考えさせられます。
さらに、話が進むにつれ、依頼主の過去も垣間見えてきて。いったい、彼女は何のきっかけで、ここまで生活を崩してしまったのか。……非常に気になります。
さらにさらに。あちこちに散りばめられた、イギリスっぽさ!もう、素敵!素敵!と触れ回りたくなるほど。イギリスの暮らしをよく知り尽くしている作者さんならではの、その醸し出すイギリスの空気がとても新鮮であり、にもかかわらず懐かしくもあり。
続きも気になりますが、何度も読み返してそのイギリスの空気に浸っていたいと思える。そんな素敵な作品です。
読了がコンテストの期間内にならなかったことをまずお詫びせねばなりません。
でも、読み始めた時から毎回、続きを楽しみにしていました。
イギリスの地で暮らした人々の息遣い、悲劇と喜劇とが交錯する様子を、英国情緒という言葉で片付けてしまうのは忍びないし、ミルドレッドに叱られそうです。
しかし、英国の文化を織り交ぜたこの作品に現れる彼らの暮らしには、やはりある種の気高さを感じずにはいられない。
もちろん、その良いところも悪いところも、この物語の中では語られています。
そうした国の歴史とそこに暮らす人々の歴史が文字通り積み重なって雁字搦めで動けなくなる。
そんなしがらみを捨ててしまえば早いのかもしれないけど、しがらみというのは歴史であり、その人の人生そのものでもあるわけで、そう簡単にもいかず、「じゃあ、どうするの?」ということを考え、なんとか方法を模索していく様は、まさにお仕事モノでもあります。お仕事モノを思い切り踏み込むと、こうなるのかと脱帽しました。
お仕事モノの定義を広げ、人と国と文化の中で、それらを受け入れて前へと進む圧倒的な人間賛歌。
壮大ではないけれど重厚な、それでいてさりげなくて親しみやすい、人と歴史の物語。
ぜひぜひ読んで欲しい一作です。