この物語は、小柄で男の子に間違われることの多い少女ウネンを中心に、とある理由で彼女と共に旅をすることになる剣士と魔術師との冒険譚です。
初手から散りばめられた謎が多い中、主人公であるウネンが一瞬見せる表情で、彼女が可愛らしい性格の少女だと教えてくれます。
彼女が出会う剣士と魔術師も、どこか胡散臭さを残しつつも可愛いなと思わせられる描写が多々あり、読み進めるごとに彼らに対する興味をぐっと高めていってくれることでしょう。
中心人物だけでなく、旅をする中で出会う様々な人々の解像度も高く、物語全体を通して人物描写が丁寧なのです。
それだけでなく、情景描写も非常に丁寧に描かれています。
酒場の様子、多種多様な看板、石畳の道に石造りの尖塔、仰ぎ見る城、坂の上から見下ろす街並み……登場人物の目を通して共に見る光景が、とても鮮やかに目の前に広がります。
町ごとの特色もあり、雰囲気も変わります。彼らが新しい場所に足を踏み入れるたび、彼らと同じ場所に立って、この世界を存分に楽しむことができるのです!
更にはこの世界における神や精霊、魔術などといった設定も凝っており、かといって置いてけぼりにされる心配はありません。そういった知識がまだないウネンが欲する形で、その情報が少しずつ提供されるからです。
シリアスな展開だけでなく、時には笑いのツボも突いてきてくれますよ!
徐々に縮まっていく距離感、育まれる友情と絆、見えなかったものが明かされていくカタルシス。長編ならではの楽しみを、しっかりと味わえます。
大切な人を探しながら、謎多き世界の秘密の端に時折触れながら、少しずつ前へと進んでいく冒険譚。
過去を紐解き、未来を求めて、歩み続けるウネンたち。
彼らの「これから」にも思いを馳せられる、心地良い余韻のある物語です。
自信を持ってお薦めします(^^)!
少年に間違われがちなぼくっ子少女と、護衛という名目でついてきた二人組の青年が、失踪した医者を捜して各地を旅する冒険譚。
行方の知れない医者へレー氏は、主人公である少女ウネンと縁の深い人物ではあるものの、実は青年二人とも深い関わりを持つ存在だったりします。彼の足取りを負って一期一会を繰り返していくうちに、真相と世界の秘密が明らかになってゆく……という謎解きの側面を持つ旅物語です。
ウネンはぼうっとしているところがありつつも、臆さず話し物事を深く考えて読み解く聡明さを持った少女なのですが、重い過去を背負っています。幼少期の経験と、医者へレーとの出会い。それが彼女を旅に駆り立てているといってもいいかも。そこに、無口ながら親切な剣士オーリと軽妙で頭の良く回る魔術師モウルの、秘密と思惑が絡み合って謎を複雑にしています。
全部の真実が明るみになるのは終盤ですが、そこで一気につながってゆく感覚は非常に面白く、また懐かしいものでした。
世界の作り込みと、世界観を表すため考え抜かれた用語、雰囲気を保つ筆致も素晴らしい、読み応えのあるファンタジーです。
大長編ですが完結しておりますので、ぜひゆっくりした時間にご一読ください。
とにかく心の底から物語に浸れる作品です(こちらをレビュータイトルにするか迷いましたが)。
特に人物描写が秀逸で、登場人物の感情が手に取るようにわかるためか…全ての話で物語に没入してしまいます。
それが原因でもあるのか、気づかぬうちに、共に旅する三人の登場人物に本当に愛着が湧いてきて…
完結まで読み終えた今、この先もずっと三人の旅を見守りたい気持ちでいっぱいで、少し寂しくなってしまいました。
登場人物への愛着もある中、世界の大きな謎を解き明かす展開から、
速読の方は面白くて読む手が止まらず、遅読の方はじっくり噛みしめながら読めるような作品かなと思います。
いずれにせよ、これだけの文字数の超大作にも関わらず、
初めから終わりまでずっと楽しみに読めるのは本当に凄いなと思います。
物語に心の底から没入し、三人の旅を見守るこの読書の時間が大好きでした。
この作品に出会えて本当に良かったです。ありがとうございました!
地図を作る知識がある少年に見える少女ウネンを主人公とし、大柄な剣士オーリと皮肉屋の魔術師モウルのコンビが織りなす、ほのぼの旅行記を想像して読み始めした。
怪しいけど何処か憎めない凸凹コンビと共に、地図作りの知識を授けてくれた師を探す旅に出るという小さな物語からのスタートで、最初は本当にイメージ通りだったのですが……。
事件に巻き込まれながら進む物語にあって、今までのエピソードで知りえた事が突如、線を結ぶ瞬間があり、「あ、あれってこれの事だったんだ!」と、世界の解像度が一気に上がるのです。そして自分が今、壮大な世界の中にいると知る。
と同時に、彼らの過去が適度に絡められ、欠点も長所もひっくるめて登場人物のすべてが好きでたまらなくなっていくという。
一つの話を読むと、疑問が沸いたりもっと深く詳しく知りたくなり、気づけば「気になるから次のエピソードも読んでおこう」を繰り返し、時間を忘れて読みふける有様。
次々に現れる謎を喜怒哀楽様々な彼らの体験を通し読み解いて、共に世界の秘密に迫った時の感動たるや。
過去話に辛いエピソードもありますが、それがあったからこそ今がある、という前向きな捉え方をしてしまいたくなるほど、彼らの「今」が出来上がっていく大団円。
後半は特に読むのが止められないので、まとまった読書の時間が取れる日にはぜひこの作品を。
少年と見紛う筆者師見習いのウネンは、地図制作の依頼の途中で腕利きの旅の剣士と何やら曲者の魔術師と出会う。彼らはウネンの師を、その罪のために探しているのだという——。
この世界では魔術師は皆、光を通さない漆黒の髪をもつと言います。神の「かたえ」と呼ばれる魔術師、ノーツオルスという謎の存在、そして、ウネンの師匠であったヘレーの秘密。それはやがて世界を揺るがす大きな謎へと繋がっていきます。
そして、とにかく登場人物たちが魅力的! 寡黙で、でも優しい剣士のオーリ、笑顔が胡散臭いと言われてしまう曲者のモウル、通りすがりの盗賊たちは悪役なのに、なんだか思わずクスッと笑ってしまうような愛嬌も。
何より、わりとあれこれ率直な物言いをしてしまうウネンですが、彼女が背負う過去が明らかになったとき、辛いけれど、彼女を見守る人々の温かさに思わず涙がこぼれました。
魅力的な登場人物たちと、風の吹き抜ける音や大地の匂い、そして見たこともない魔法がいきいきと感じられるこの世界で、ただの剣と魔法のファンタジーでは終わらないその謎を、ぜひ彼らと共に最後まで見届けて欲しい、素晴らしい一作でした。
個人的には脳筋魔術師(!)のマルセルとトゥレク老師が大好きなので、また彼らの登場する番外編なんかも読んでみたいですー!
世界の秘密を巡る冒険譚、とあらすじには記されています。
けれど読んでいる時の感覚としては、決して謎はそんなに(読者の手に負えないほど)壮大なものではないのです。目の前に現れた謎にひとつひとつ触れ、探り、解決し……と堅実に、けれど時折織り交ぜられる事件に息を呑みながら読み進めてゆくと──ある時唐突に、「世界」が姿を表します。
知らず知らず、自分は主人公ウネン達と共にとてつもない秘密を探らされていたのだと、突然気づかされるのです。
散りばめられたピースが魔法のように美しく組み上がってゆくのを、口をぽかんと開けて呆然と見ているような心地がしました。
と、このレビューだけを読んだ皆様はきっと「抽象的すぎてどんな話かわからない」とお思いでしょう。
けれど下手な口は利けないのです。丁寧に読んできたつもりですが、どこの何が伏線になっていたのか、どの部分なら話してもネタバレにならないのか、私にもまだ把握しきれていません。
ともかく、謎の全てを知り尽くすために私はすぐにでも読み返そうと思います。皆様もぜひ一緒にこの物語の中を冒険し、謎解きしましょう。
あの日の私が、ここにいる――
読みながら抱きしめたくなるような優しい物語は、名前も覚えていない、当時の私が愛してやまなかった児童文学の表紙を撫でるような心地をくれました。
懸命で可愛らしいウネン。少年のように見られがちな彼女は素直で、優しく、賢い人です。
そんな彼女が出会ったオーリとモウルは、口数が少なく不器用な人と斜に構えたような態度を見せる人。その二人とも優しく、誠実で、けれども謎がある。
ウネンと彼らの関係は、謎や追うものから最初はあまり好ましいスタートと言えないでしょう。けれども三人とも優しい人で、懸命で。ウネンの真っ直ぐさと賢さが物語と彼らの関係を進めていきます。
一つの謎が解けたと思ったら一つ謎が増えるような好奇心をそそる構成、素直に応援したくなる魅力的なキャラクター達の冒険、魔法の概念や描写。そしてハラハラと心が揺さぶられるのに、絶望させられることが無い、書き手の優しさが敷き詰められたような物語。
この優しさとエンターテイメント、そして緻密なお話にひたすら抱きしめたくなるような心地よさがありました。
壮大なファンタジーと愛しい時間が、きっと訪れると思います。
本棚に並べたくなる、きっと読んだ後も背表紙を見るだけで勇気になるような、そんな物語です。
小柄で男の子とよく間違えられる、算術や科学が得意な、健気で頑張り屋のウネン。
大柄で無表情で口下手で不愛想な、腕利きの剣士オーリ。
飄々としていて口が上手い、見た目は朗らかな好青年の、切れ者の魔術師モウル。
ウネンに測量技術を教えた医者のヘレーを、オーリが探しに来た所から、物語は始まります。
最初は、味方か敵か分からないオーリやモウルの事を、警戒するウネンでしたが、彼らに何度も命を助けられ、オーリの仏頂面に隠された不器用な優しさや、モウルのひねくれた態度の奥にある誠実さに触れる内に、少しずつ彼らの事を信頼する様になっていきます。
オーリやモウルの方も、最初は、行きがかり上 、仕方なく相手していたウネンが、何事にも一生懸命頑張っている様子を見ている内に、本心からウネンの味方になっていきます。
三人とも辛い過去を抱えているのですが、ヘレーを探して旅をする内に、お互いで支え合い、補い合い、一つずつ問題を克服していく。まさに、最高のコンビです!
キャラクターも魅力的ですが、ストーリーもとても面白いです。
綿密に張られた伏線や、あっと驚く展開は、何度読み返しても良いです。
風景や人々の生活の様子も生き生きとしていて、実際に映像を見ているみたいです。
特に、魔術関係の描写が、神秘的で美しくて大好きです。
いつまでも、彼らと共に、この世界を旅していたいと思いました。
素晴らしい世界観、伏線、情景の描写。
そして、その世界の謎に迫る、少女と二人の青年の物語。
この主人公トリオが、とてもいい。
ちっちゃいけどしっかりもの、かわいいウネン。
胡散臭くて意地っ張り、実は仲間思いのモウル。
無口で無骨、仏頂面してるけど皆のお父さんみたいなオーリ。
それぞれ重い過去を抱えていて、それが表出する事もある。
でも、きっと乗り越えられる。
自分が変わってしまっても、変わらないものがあるから。
そして、伏線の回収、謎の解明が爽快感たっぷり!
「なるほど!」「おお、そうきたか」が楽しい!
アクションの描写もリアル!
オーリが戦ってる所は特にかっこいい!(ファンの贔屓目だけじゃないよ!?)
長編好きな方には、是非詠んで欲しい。
二度目に読むのも楽しい物語です。
「知識はちからなり」
作中で幾度も繰り返される、ある里の格言だ。
知識は文明の礎であり、人々の暮らしに恩恵を与える。
また同時に、欲望を具現化し、争いを引き寄せもする。
物語の序盤、初めに具体的に示される知識とは測量術だ。
ぼくっ娘でちびっこのウネンは極めて正確な地図を作る。
土地を持つ者にとって、地図は財産の大きさを映す鏡だ。
鏡像を見たい者もいれば、他者に見せたくない者もいる。
ウネンを再三の窮地から救うのは、旅する青年2人組。
彼らはウネンの師であるヘレーを探しているのだが、
笑顔が胡散臭い魔術師モウルも不機嫌な剣士オーリも、
隠し事だらけの上、口を開けば不穏で物騒な言葉ばかり。
「その知識は、本来お前が持つべきものではない」
ならば、なぜヘレーはウネンに知識を授けてくれたのか。
ヘレーが失踪したのは、その言葉に関わりがあるのか。
モウルとオーリがたびたび不自然に黙り込むのはなぜか。
ウネンが時折感じる〈囁き〉は何者によるものなのか。
胸に抱えた疑問を少しずつ言葉にし、語り合いが為され、
時にぶつかり合ったりしながらも、旅路は開かれていく。
健気なウネンはいじらしく、モウルの面倒臭さも可愛いし、
オーリの不器用な優しさもいい。登場人物が素晴らしい。
魔術とは何か、神とは何か、精霊とは何か、呪いとは何か。
世界に存在する八百万の何者かとの精神的感応の在り方を、
ウネンとモウルはたびたび議論し、確認し、真実を探る。
その概念を読者の前に示すやり方がスマートで感服した。
物語全体の雰囲気や文章の風合いは柔らかくて爽やかで、
その親しみやすさと謎解きのリズムのよさに惹き付けられ、
50万字に届こうかという長編なのに、ほぼ一気に読破した。
ああもう異世界ファンタジー書きたい! 封印してたのに!
ウネンもモウルもオーリも、旅に出る前も旅の最中にも、
幾度も苦しい思いをし、怒りや悔しさに打ちひしがれた。
謀反者の問題が解決しても、仕切り直して訪れる未来では、
今までになかった課題に直面していくことになるはずだ。
けれども、なんて清々しく力強く優しい読後感だろうか。
登場人物が愛おしくて、もっとずっと読んでいたかった。
声を大にして言いたい。
「すっごくおもしろかった!」
追記:個人的なことを付け加えると、
「知識の扱い方はいかにあるべきか」というテーマは、
研究界隈との付き合いがある私にとって身近なものだし、
何より、里の言葉がモンゴル語なので妙に嬉しくなった。
いつも少年に間違われる地図屋のウネンは、領主から領土境界の地図製作の依頼を受け、護衛を探していた。出会ったのは、大柄で不愛想な剣士オーリと、うさんくさい魔術師モウル。二人は、ウネンを育て、地図製作に関わる知識を教えてくれた医師・ヘレーを探していた。ウネンを置いて姿を消したヘレーが、過去に罪を犯したというのだ。ヘレーの無実を信じるウネンは、二人とともに、彼を探す旅に出る――
中世欧風異世界FT。とにかく、ウネンちゃんが可愛い。凸凹コンビの男二人とのやり取りに微笑みながら読んでいくと、物語は意外な方向へ向かいます。
読後感の爽やかなお話です。