壮大な冒険と、謎と、それでもどこか優しいファンタジー小説

あの日の私が、ここにいる――
読みながら抱きしめたくなるような優しい物語は、名前も覚えていない、当時の私が愛してやまなかった児童文学の表紙を撫でるような心地をくれました。

懸命で可愛らしいウネン。少年のように見られがちな彼女は素直で、優しく、賢い人です。
そんな彼女が出会ったオーリとモウルは、口数が少なく不器用な人と斜に構えたような態度を見せる人。その二人とも優しく、誠実で、けれども謎がある。
ウネンと彼らの関係は、謎や追うものから最初はあまり好ましいスタートと言えないでしょう。けれども三人とも優しい人で、懸命で。ウネンの真っ直ぐさと賢さが物語と彼らの関係を進めていきます。

一つの謎が解けたと思ったら一つ謎が増えるような好奇心をそそる構成、素直に応援したくなる魅力的なキャラクター達の冒険、魔法の概念や描写。そしてハラハラと心が揺さぶられるのに、絶望させられることが無い、書き手の優しさが敷き詰められたような物語。
この優しさとエンターテイメント、そして緻密なお話にひたすら抱きしめたくなるような心地よさがありました。

壮大なファンタジーと愛しい時間が、きっと訪れると思います。
本棚に並べたくなる、きっと読んだ後も背表紙を見るだけで勇気になるような、そんな物語です。

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