2013年1月某日 井上和成からのメール
こんにちは。初めてメールをさせていただきます。
井上友里恵の弟の井上和成です。
僕は、お姉ちゃんの代わりをやる事が嫌ではありません。
お母さんは僕を見るといつも「汚い」「死ね」「あの男(お父さんのことです)みたいだ」と僕に言いました。
それが今では僕のことを「友里恵友里恵」と言って可愛がってくれます。
僕はお姉ちゃんが大好きだったからお姉ちゃんがいないのは悲しいです。
だけど、お母さんがお姉ちゃんばかり可愛がるのを見ていて悔しい思いもありました。
僕がお姉ちゃんと同じようにお母さんに愛してもらうにはお姉ちゃんになるしかないと考えていました。
僕がお姉ちゃんの部屋でお姉ちゃんの服を着ている時、お母さんが部屋に入ってきました。その時、僕を見て「友里恵!」と言って抱きしめて泣いてくれました。
その時、僕はお姉ちゃんになろうと思いました。
その日からお姉ちゃんの写真を見て研究して化粧をはじめたり、ドンキでカツラを買ってきてお姉ちゃんの髪型みたいに切ったりしました。
僕がお姉ちゃんに近付くごとにお母さんは僕に優しくなりました。
もっと僕が頑張ってお姉ちゃんに近づけば、もしかしたらお母さんの中ではお姉ちゃんが死んだことにはならないと感じました。それからは昔のビデオを見直したりしてお姉ちゃんのモノマネをはじめました。
僕がお姉ちゃんの癖だった髪の毛を指でクルクルやることとか、困った時は下唇の左側を少し噛むこととかもやると、お母さんはどんどん僕に優しくなってくれました。お母さんはお姉ちゃんを通して僕を大好きになってくれます。それが嬉しいです。
これからもお母さんは僕を好きでいてくれるし、僕は大好きお姉ちゃんとして、お姉ちゃんを感じながら静かに暮らしたいです。
一番言いたいことは、僕とお母さんはお姉ちゃんが死んでしまったことを受け入れられたということです。
お姉ちゃんが殺されてしばらくしてから学校に行った時、色んな人に色んな事を聞かれました。その時はお姉ちゃんがいたのだと考えています。
だけど最近は誰も何も聞かないし、僕も友達とゲームの話をしたりしています。
僕が気が付きました。
お姉ちゃんがもう一度死んでしまうと気が付きました。
お姉ちゃんが消えてしまう事で、僕はもう一度お姉ちゃんを殺してしまうと感じました。
藤田さんがお姉ちゃんを調べると、綺麗だったお姉ちゃんが苦しんでしまう気がします。
お母さんにお姉ちゃんがいないとか言わないで欲しいです。お姉ちゃんはいます。僕がお姉ちゃんになりますから。
これ以上僕のお姉ちゃんを苦しませないでください。僕とお姉ちゃんとお母さんは静かに暮らしたいです。
やっと静かに暮らせるようになりました。
お母さんはたまに僕のチンチンを触って「ニセモノめ」と叫びますが、僕はもっともっと完璧にお姉ちゃんに近付くつもりです。
僕とお母さんのお姉ちゃんはずっといます。
僕とお姉ちゃんがお母さんを支えて家族みんなで頑張ります。
僕は、小さい頃からお姉ちゃんが大好きでした。
お姉ちゃんになりたいと考えていました。
夢が叶いました。
お体には気を付けてください。
お元気で(^o^)
~メモ~
顔文字がここまでムカつくとは思わなかった。
どんどん井上友里恵が遠くなっていく。
一人ひとりに井上友里恵がいて、その井上友里恵を有るべき形のままで残そうとしている。
まるでエンバーミングだ。
内臓を掻き出され、肉体すら消えたのに誰もが大切に抱えている。
井上友里恵はなぜ「死んだ」のか?
なぜ「殺されたか」じゃない。
なぜ「死んだ」んだ。
時間が経つ事にわからなくなっていく。井上友里恵はどこにいる?どんな姿で?誰の中に?
少なくとも私の中では作り笑顔でほほえむ写真の中の井上友里恵ではない。
何かが変質をはじめている。
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