2027年5月某日

○手紙に書かれていた住所にはまだ小さな公園があった。指示があった場所を掘り起こすと本当にあった。私は全てを眺め、確認した。ずっとずっと考えていた。どうなっているのか。本当に永遠になったのか。永遠に存在し続けていたのか。もしかしたら死後特集が組まれてライブハウスの音源などをつかって追悼のCDも出ていると考えていた。

 現実はなんて味気ないんだ。あんなステキな女性が殺されたのに世間は毎日同じような時間が積りあがり、誰の記憶からもはじき出されてしまった。私の中で作り上げられていた井上友里恵は存在している。ずっと今も囁いている。忘れないように強く強く強く毎日思い続けてきた。時に笑いかけ、時に怒り、時に添い寝までしてくれるようになった。そんな井上友里恵を感じ続けてきたからこそ、長い時間を耐える事ができた。

 会いたくて叫びそうになる。実際叫んでしまった事もある。ふと壁を見ていると、壁が井上友里恵の形になり、私の周りを華麗に飛び周りながら消えていく。井上友里恵が歩いた後には綺麗な花が先、飛んだ軌跡は虹になる。それが嬉しくて毎日壁を見て笑っていた。

 手紙は何度も読み返した。みんな悔やんでいると書かれていた。みんな悲しんでいると書かれていた。それを見て私は嬉しくなった。井上友里恵が永遠となり、誰かの中では生き続ける事ができていると思うとより井上友里恵は明確になってきた。ただただ井上友里恵を考えていた。


 今思うと、どうしてあの時、井上友里恵を刺したのか。私はただの客だったはずだ。井上友里恵といられる時間を金で買い、その時間を甘受するだけで良かった。何度も何度も会う内に井上友里恵の中にある空虚を埋めるべく存在になりたいと考えていた。私はいつもそうだった。井上友里恵は私の事が好きなのだと感じた。私はいつも客として店に行く。するといつも人に好かれてしまう。誰もが寂しさを感じている世の中だ。しょうがない事として受け入れている。

 今までは本名も分からない相手ばかりだったのでその後の事はどうなっているのかは分からない。だが、私が永遠にすると思ったのだから永遠になっているに違いない。


 井上友里恵を殺した時、私は「もう良いかな」と思った。「助けて欲しい」と泣いてせがまれその通りにした。私は人生でやるべき事をやりきったと感じて自首をした。しかし、一通の手紙が来た。井上友里恵を追っている人間から、藤田さんだ。そこで私はまた生きる希望を見つけてしまった。今までは永遠になった事を確認できなかったのが寂しかったが、今回は永遠になった後の世界を見ることができる。どんな世界なのか。夢や希望にあふれているに違いない。


 それが現実はどうだ。手紙、メモ、録音。全てを見て全て聞いた。誰もが都合よく生きている。そして私の井上友里恵を壊そうとしていた。誰もが忘れてこの世界から井上友里恵を消し去ろうとしていた。それが許せなかった。私の中の井上友里恵を消し去ろうとしているに違いないと感じた。


 少し時間はかかってしまった。だけどやっと皆に思い出して貰えそうだ。何をしたのかもきちんと説明して貰えそうだ。


 あー、こんなもんで良いか。よし、やるか。


 皆さん全部思い出しましたか?そう慌てないでください。島さんは本当に忘れていたから少しずつ刺激を与えて思い出させようとしました。まあ、途中で動かなくなりましたが。皆さんは覚えていますよね?まだ全ては思い出せていないでしょう?少しずつで良いです。本当に少しずつで良いです。


 皆の中で井上友里恵を生き返らせてください。そして我々で永遠にしましょう。ゆっくり。時間を掛けて。そしてずっとずっと頭の中で正しい井上友里恵を思い、そして友里恵を大切に、唯一の存在として思い続けましょう。それが、友里恵の望みですから。


~完~

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