2012年4月某日 島雄平

●殺してやりたいですよ。友里恵がなんで殺されんとあかんかったんですか。ほんま…今もめっちゃ思い出すし…多分これからも忘れられへんと思います。僕、ほんまに止めてたんですよ。変な客がおるって聞いてからなんかあるんちゃうかなって思って。ほんま…なんで友里恵が殺されなあかんのか…それに友里恵…オーディション受けるって言っとって…


○島さん、無理に話さなくても良いですよ。大丈夫です。


●すんません。やっぱり…ハラワタ煮えくり返ります。ほんまあの犯人、名前も言いたないですよ。あいつ、死刑にならんのですか?死刑ならんかったら出所する日に殺しに行きたいですよ。殺したいです。あいつは僕から友里恵を奪ったんです。僕だけじゃない。友達とか…家族とか…ほんま許せないです。でも…こんな事考えてしまうのは…僕も犯人と同じなんですかね。気に入らんから殺すって事やし…


○いや、私も…私も同じですよ。私も…同じです。


●…?失礼ですけど…ご親族か誰か…


○いや、私の場合は事故なんですが…妻が原付きで買い物に出ていて…その時に車と事故を起こして…


●…すんません。


○良いんです良いんです。島さんや…井上さんのご家族の方が辛い思いをなさっているでしょうし…私は…もう納得しましたから…


●どうやって…?


○はい?


●どうやって…納得したんですか?僕…納得できる気せえへんのです。ほんまに真剣に付き合っとったし、将来も…本気で考えとったし…ほんま、納得できないです。殺さないと納得できないと思います。あの…藤田さんは…いつごろ…


○もう五年前ですよ。事故を起こした方はお婆さんで…すぐに警察や救急に連絡もしてくれたのですが…私も、轢き逃げとかされていたら同じ気持ちだったのかもしれないです。でも…今でもその方から手紙が来るし、命日に墓参りに行けば新しい花も飾られているし…なんだろう…もう…難しいですが…根っこでは許せない気持ちもあるのですが…もう…しょうがないなと思いまして…


●あいつもするんですかね。


○え…?


●墓参りとか…してくるんですかね。ほんま。どの面下げて。殺したいです。あいつ。殺したんですよ?事故は…気の毒やと思いますけど、僕、いきなり目の前から奪われたんです。偶然ちゃうんです。あいつが殺そうとしたから…殺されたんです!……ほんま、なんでなんやろ。なんでこんなんなるんやろ。僕ね、悔しいんです。一番最初に警察が調べたの僕なんですよ。携帯とかパソコンとか全部持っていかれて。僕、恋人殺されたんですよ。殺すはずないやないですか。それやのに…それで…ずっと犯人捕まらんくて。周りの友達も僕に同情するふりして、僕が殺したって言いまわってる奴もおったんですよ。

 今まで連絡してけえへんかった奴からもいきなり会いに来たりとか…それで…僕も辛いからちょっと喋ったらそれが週刊誌出とるんですよ。なんでこんな思いせなあかんのですか!僕、なんかやりました!?被害者やないですか!!


○そうですね…


●殺された前の日も普通に会って、バイト先から一緒に帰って…そこまで一緒やったんです。…今でも後悔しとるんです。僕が泊まってあげてたら…危険に気付いて上げていたらって…


○井上さんとは…かなり長く付き合っていたのですか?


●10日です。


○え?10日?


●はい。友里恵は照れ屋なんで僕と付き合ってるとか人に言っていなかったらしいんです。でも…女優目指しとるし、ライブハウスで歌ったりしとった訳やないですか。だからそれはええんです。


○結婚とか…考えていたんですよね?2人で…?


●僕、友里恵の事めっちゃ好きやから分かるんです。僕がめっちゃ言うんですよ。家庭に憧れ持ってるし。それやから友里恵も同じやろと思うんです。恋人の僕がそんな風に思っとるんやから。友里恵も思っとるに決まってるやないですか。藤田さんも結婚しようと思った時、奥さんもそう思っとったんですよね?


○え…?ええ。はい。学生の頃から付き合っていましたし…


●どのくらいとかそんなんええんですよ!大切なんはどれだけ愛しとったかって部分じゃないんですか!?僕はめっちゃ愛してました。友里恵を心から愛してました。だから今、めっちゃ悲しいし悔しいんですよ!友里恵、ほんまに照れ屋から…僕が家に行こうとすると嫌がるフリするんです。「そんなんじゃないから」って照れ笑いしながら言うんです。そんなん、僕のことめっちゃ好きやから言ってくれる訳やないですか?手とか繋いだらめっちゃ照れて「やめて」って言うんです。そんなんも全部可愛くて…ほんま僕が守ってあげなあかんって思っていたんです。それやのに…それやのに…


○なるほど………どういうキッカケてお付き合いを?


●僕も役者やっとるから…ワークショップ行くんです。ワークショップわかります?


○ええ。役者の方が教えてくれて…物によっては舞台とか?に繋がる感じの…


●そうなんです!そこで出会ったんです!僕、めっちゃ可愛いなと思って見てたら僕の方チラチラ見てきて。それで僕が声掛けたんです。友里恵も「運命の人」って思ってくれたんか、僕の方、口をあんぐり開けてずっと見てて。それでもう、僕、たまらんようになってきて。その日のワークショップ終わったらすぐに告白したんですよ。やっぱりめっちゃ好きやったらそんなんすぐに告白するやないですか?

 その後、友里恵はワークショップけえへんようなったんですけど…意識してまう子なんでしょうね。恋人と一緒に、それに隠さなアカン訳やないですか。僕も申し訳ない事したなー思いましたよ。そやけど、友里恵がけえへんようなったって事は、僕と付き合った未来の方がええ未来あるってわかったって事じゃないですか?それで…友里恵のミクシィ見て、友里恵の友達に「彼氏なんですけど、友里恵最近見ないのでバイト先教えて」って聞いたら教えてくれて。それでバイト先にも毎日行ってたんです。それで…一緒に帰って…

 一緒にいた期間は短いかもしれんけど、友里恵は一生の宝物ですよ。忘れる事なんかできませんよ。


○なるほど…友里恵さんは…島さんの事をどんな風に言ってました?…恋人だって?


●そこが可愛いんですよ…「友達、友達なら」って…控えめな子って付き合った事ないから全然わからなかったんですけど、何ていうか…ほんま、儚い子やなって…守ったらなあかんて思って…泣きながら「友達…」って言うんですよ。そりゃ女優や歌手やってたらそうとでも思わないと隠しきれないですよね。僕も同じ芸能の道の人間やからわかります。

 友里恵には辛い思いさせてしもてたんだなって…反省もしているんですけど…でも…犯人は許せないです。とんでもないクソ野郎ですよ。何考えてるかわからん。ほんま、絶対にあいつ普通じゃないですよ!刑務所入っとっても変わんないですよ!殺さないとダメなんですよ!!!


○わかりました。そうですね…うん…気持ちは…よくわかります。あの…島さんは役者さんなんですよね…?井上さんは事務所に入ろうと頑張っていたらしいですが…島さんはどこか所属されているのですか?答えられないならそれでも良いですよ。


●僕は今ね、様子を見ているんです。


○様子…?


●僕って絶対役者になるやないですか。それやのにしょうもない事務所入れないから。ワークショップ出たり、テレビや映画見て、どこが1番僕に合うか見定めているんですよ。友里恵も…良い事務所一杯紹介したかったですよ。僕、めっちゃ詳しいんです。友里恵絶対に女優なれていましたよ!それを!!アイツが!!!あのクソが!!!全部台無しにしたんですよ!!!!僕と友里恵の未来も!!!!!くそ!殺したい!ほんま殺したいです!!!


○悔しい気持ち、わかります。また…お話し伺わせていただければ…よろしくお願いします…


●絶対に来てください!僕、ほんまに悔しい!今、高まりすぎて話されへんけど…また時間取ります!友里恵の事!忘れんといてください!僕の最高の恋人なんです!!なんでこんな事なったか…追求してくださいね!!約束ですよ!!


○はい。ではまた連絡します。


~メモ~

島と別れてから頭痛が止まらない。吐き気もする。

なんだアイツは。井上友里恵。友に恵まれてなかったんだな。

クラクラする。もう寝よう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る