2012年10月某日 島雄平

●えらい久しぶりですね。前にお話ししたのって4月でしたよね。あの時はほんますんませんでした。何ていうか…変な話…僕もだいぶ高ぶってて…藤田さんに当たり散らすみたいになってしまって…今…冷静になりたくないのに妙に冷静になってしまっていて…ほんますんませんでした。


○こちらこそ申し訳ありません。ちょっと体調を崩したりもありまして…


●こんな取材とか大変ですよね。誰に話し聞いてるとか知りませんけど、変なのも多いんちゃいます?


○ああ…まあ…皆さん良い人ですよ…


●ほんまですか?なんやろ…友里恵の周りって…キャラ濃い人多かったみたいやし…ライブ見に行った時もそれめっちゃ感じたんですよね。


○ライブに見に行かれた事がある?


●はい。ワークショップで付き合う事になって、そのまま家まで一緒に帰って…その時はやっぱり友里恵は照れ屋やから家には入れてくれへんくて。ずっとアパートの近くで部屋見上げてたんですよ。


○…ずっとですか?


●でもたいした事ないですよ?あの日…夜の9時位かなあ…その位からずっと待ってて、それで、友里恵が次の日家を出たのが昼前やったと思うんです。スーツケースコロコロさせながら出てきたんですよ。旅行でも行くんかなあ思って「旅行にでも行くの!?俺、聞いてないよ!?」って話しかけたんです。彼氏やからやっぱりそういうのも心配じゃないですか。じゃあ、急に泣きはじめて…「付いて来ないで」って言うんです。彼女が泣いていたらびっくりするじゃないですか?せやから心配になって…


○後をつけたと…


●はい…それで小さいライブハウスに着いて…友里恵が入っていくまで見守っていたんです。ライブハウスって事はこの後にライブするんかなって思って、それやったら彼氏なんやから見たらなあかんなって思ったんです。でも、大切な彼女見るの…手ぶらやったらあかんじゃないですか。せやからペットショップ行ったんですよ。


○ペットショップ?え、それはそういう店名じゃなくて普通のペットショップですか?


●え?はい。ペットショップです。女の子って動物好きじゃないですか?その日も猫がプリントされた服着てたと思うんですよ。恋人のことってすぐわかるしわかりたいじゃないですか。ほんまは猫とか買ってあげたいなーって思ったけど、僕だってそこまで非常識じゃないですよ。猫とか世話大変やし。


○ああ…まあ、そうですね。


●せやから首輪買っていったんです。赤い首輪。


○首輪ですか?なんで?


●いや、僕の彼女やから僕の物じゃないですか。だから首輪付けて欲しいなって思って。ある意味で僕が飼い主になったって部分はわかってほしいし、僕の物なんやから買ってな事とかしてほしくないなーって思って。首輪、付けてくれたら立場とかわかってくれるかなって思ったんです。


○……嘘じゃないですよね?


●なんで嘘吐かなあかんのですか?


○いや…ちょっと…びっくりして…


●ああ、今時…僕みたいに彼女の事考えている人っていないと思いますよ。自分でも古風な方やなってちょっと恥ずかしくなったりしますもん。でも、うちの父親がそんな感じやったんです。父親はいつも母親に首輪付けて、言う事聞かんかったら酒瓶で失神するまで殴るんですよ。それずっと見てたら「好きな人にはこんな風にするのが男なんやなー」思って。

 母親、家の中では首輪だけで服着るのも禁止やったんですよ。僕も父親の真似していきなりバットとかで母親しばいてみたりしたんですけど、最初はびっくりした顔してムカつきましたけど、何回もしばいてる内に僕に笑顔で接してくれて「なんでもするからしばかんといて」って言うようになって。そこから食事も残り物だけあげるようになったんですよ。僕、まだ学生やったし育ち盛りじゃないですか?父親も「お前が家を継ぐんやぞ」って言ってくれて。それで母親もニコニコしながらご飯くれるから。他の人に話したらびっくりされるんですけど、藤田さん普通に聞いてくれますね。


○え…ああ…はい。


●女って男にしばかれたがるって言うか…言いなりになりたいっていうのが普通じゃないですか。もしかしたら…友里恵…


○はい。


●友里恵…誰かに刺されたりしたかったんちゃうんかなって。僕がなんで母親にしたみたいにしばいてあげたりしなかったのかなって…今でも後悔はしますね。ぼこぼこにしばきまわす前に僕じゃない男に刺し殺されるなんて…ほんまは…素直に受け取れないんです。浮気みたいな物じゃないですか。


○………


●なんか辛気臭い話してすんません。そう、首輪買って、一緒にハムスターも4匹買ったんですよ。一匹800円とかやったかな?なんか安かったから。


○はい…


●もしかしたら猫買ってあげた方が…とも思いましたけどね。正直。でも、ハムスターの方が小さいし、アパートやったら飼いやすいから。死んだらそのまま便所流せるじゃないです。詰まってもパイプ綺麗にするやつ一本使ったら溶けますし。


○…………


●それで夕方かな。ライブハウス戻ったら看板出てて。「yu-ri」って書いてあったから、これは友里恵やなって思って。それでライブハウス入ったんですよ。お客さん…確かそんな多くなかったな。15人位かな。中はあんまり広くないんですけど、テーブルにCDとか写真売ってたりしてて。そこにめっちゃブサイクな女おったんですよ。知ってます!?まななんとかなんとか言うの。あいつ凄いですね。声だけめっちゃ可愛いからちょっとドキドキしそうになったんやけど、僕、友里恵一筋なんで。それでその人に「友里恵どこですか?」って聞いたら呼んできてくれて。

 友里恵、めっちゃ喜んでましたね。僕の顔見た時に目をめっちゃ開いてガクガク震えはじめたんですよ。母親が父親見る時と同じ反応やなー。愛されてるなーって思ってちょっとうれしなりましたね。それで。小さい声で「何も言わないでください。絶対に誰とも話さないでください」って言うんですよ。彼氏に対して何を偉そうにって思ってちょっとムカつきましたけど、僕も優しすぎるんかなあ。彼女やから許してしまうんですよね。まななんとか言うおばはんが「彼氏?彼氏なの!?すご~い!でもライブハウスには呼ばない方が良いかもね~!」とかめっちゃ大きい声で言いおるんですわ。このおばはん、めっちゃ気持ち悪いけど、空気ちゃんと読めるんやなって思いましたね。それでライブはじまって。なんか女の子が無理してアニメの歌とか歌っとるなーって感じやったんですけど、そこに友里恵出てきて。僕の事をチラチラ見るんですよね。やっぱり緊張しとるんやなって思いました。

 それで僕も応援せな!って思って「頑張れ!」「友里恵!」とか言ってあげたんですけど…友里恵の照れ屋な部分が悪い方向に出たんですよね。泣きながらステージ降りて、そのままライブハウス走って出ていって。女優とか目指すんやったらちょっと心弱すぎるんちゃうかなーって思いましたよ。でも、そういうのを支えるのも彼氏の役目やなとは思って。

 後を追おうと思ったらまななんが僕を止めて「彼氏なの?色々教えてよ」ってニヤニヤしながら言いおるんですよ。せやから僕も友里恵との事を色々話して、将来も考えているとかも正直に話たんです。まななん、めっちゃぶさいくやけど、僕が話したらニタニタ笑って喜んでましたね。それで、なんか僕もちょっとめんどくさなって、話聞いてくれたお礼に首輪渡したんですよ。なんとなく。じゃあ「はじめて男の人にプレゼント貰った~!」とか言って腹震わせながらぴょんぴょん飛んで。ちょっとええやんけって思ってしまいましたね。やっぱり友里恵に失礼な事された後やから。

 それで家まで行って…電気消えてるし、ドアも100回くらいノックして、ピンポンもめっちゃ鳴らしたんですけど…ライブの失敗が堪えたのかその日は出てきませんでしたね。そのまま帰るのも可哀想やから、郵便受けからハムスター入れてあげたんですよ。じゃあしばらくしたら部屋から「キャー!!!!!」って喜ぶ声がして。多分、2人の距離が一気に縮まったのこれがキッカケじゃないかなって思うんです。その後もドアをガンガン叩いて友里恵を呼んでたらドアがちょっとだけ開いて。「何が目的なんですか…」って…そんなん、幸せな家庭を築く事に決まってるやないですか。それをそのまま伝えたら。「乱暴だけはやめてください」って…当たり前やないですか。乱暴なんかしないですよ。求められたらバットでしばいたりしますけど、求めなかったらちょっと蹴ったりとかじゃれ合い程度しかしないですよ。

 それで…その日はバイトやったから帰ったんですけど…次の日とかもドア越しに話したりとか…そんな感じですね。別に変わった話でもなくてごめんなさい。


○いえ…いえ、はい。大丈夫です。


●最初に言ったけど、やっぱりちょっと冷静になりつつあるんですよね。もう友里恵はおらんのやなーって思ったりするとそんな気持ちが強くなりますね。僕って…薄情なんですかね?


○いや…うん…なんていうか…はっきりしてる人なんだなと…


●でしょ?あ、ちょっと待ってください………ごめんなさい。話ですけどまた今度でも良いですか?今度、手紙持ってきますよ。


○手紙?


●友里恵から貰ったんですよ。殺される直前やったかな?なんか「もう無理」とか書いてましたね。もしかしたら…自分が殺されるとか…やっぱり分かってたのかな…


○また…連絡します…


~メモ~

どういう人間なんだ?なんだあいつは。

そして井上友里恵、何があったんだ。

違う。何かがありすぎてるぞ。

どこまで井上友里恵を追えるかではじめたインタビューが変質していく。

私は何を求めているんだ。

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