2012年8月某日 佐藤愛美

●………


○間があいてしまって申し訳ないです。よろしくお願いします。井上さんと普段話していて、何か予兆みたいな事はあったのかを伺いたいのですが。


●なんで…


○はい。


●なんで来てくれなかったんですか?


○申し訳ないです…少々体調を崩してしまいまして…


●払ってください。


○何を…ですか?取材費でしたら前と同じように後日振り込ませていただきますが…


●違います!チケット代です!「まななん☆104%」のチケット代です!予約しましたよね!?私、手帳に書いてますよ!?2012年4月10日!藤田健吾1枚ってちゃんと手帳に書いてますよ!?ほら!見てください!ここに書いてますよね?失礼だと思いませんか?藤田さんは来るって言っておいて来なかったんですよ?人間って信頼が1番大切じゃないですか?その信頼を裏切ったんですよ?信じられないです…何もお話しできないです。でもチケット代は払ってくださいよ。4500円とドリンク代の600円も。来るって言ったんですから当然ですよね?私、何か間違えてますか?


○………申し訳ないです…あのこれ…細かいの無いので…6000円で…


●ありがとうございます!でもね、私本当に許せないですよ。今回のライブ、あと1人で過去最高の動員だったんですよ?それができなかったのは藤田さんのせいですからね?私、自分の主催だし、リリースパーティーだったし、37…32歳の誕生日だったしで最高の日にしたかったんです!それができなかったのは全部藤田さんの責任ですからね?そこはちゃんと分かっていてくださいね?


○申し訳ないです…かなり…盛り上がったのですか?


●もちろんですよ!あーあ!でも誰かさんが来てくれていたらもっともっと盛り上がったのに…ついに動員が10人、二桁になる所だったんですよ!?それなのに…本当に悔しい…子供生まれてからずっとずっとアイドル頑張ってきたのは自分のイベントを成功させたいからなんですよ?おかしくないですか?なんで私がこんな苦しい思いをしないといけないんですか?ふざけてますよ。ライブハウスの人に「もっとお客さん呼べないと厳しいよ」ってエールも送ってもらえました。そのエールに応えられるかどうかが藤田さんの動員だったんですよ!?なんですか!そんなにユリちゃんが良いですか?みんなそうなんですよ!私に付いていたファンも皆ユリちゃんに行きましたよ。

 ユリちゃんって言ったらあれですけど若いだけじゃないですか?アイドルの事もお客さんの事も全然分かってないですよ。なのに若さだけで…いつも薄いキャミソールなんか着てライブして…露出狂じゃないですか?あの時は私も先輩だし「可愛い~!」とか褒めましたよ。後輩に優しいのもアイドルの条件じゃないですか?だから私色々教えたんですよ。髪の毛長くて凄い綺麗だったから、私がずっとずっと大切に使ってきた猫耳借してあげたんです。でも「大丈夫です」って言って着けないんですよ!?先輩の言うことに従うのもアイドルじゃないですか。それに前も少し話したかもしれないですけど、椎名林檎とか…coccoとか…鬼束ちひろとか歌うんですよ?お客さんはアニソンを求めてるに決まってますよ!フリ付けして踊ったりもしないし…正直ユリちゃん嫌われてましたよ。きっとそう。きっと嫌われてましたよ。優しい私がこんな風に思っているんですから嫌われているに決まっているじゃないですか?考えてみたら今回の事件も…いえ…ごめんなさい…言い過ぎましたね…でもこんな風に高ぶって私の思いと逆のことを言ってしまうのは藤田さんに責任があるのですからそこはきちんと分かっていてくださいね?ちゃんと謝ってください。それでもうこの話は終わりで良いです。


○…ライブに、大切な主催ライブに行けなくて申し訳ありませんでした…


●よし!はい!仲直り!ユリちゃん、良い子でしたよ。バイトも真面目だし…ライブの前の日も夜勤で入って、そのままバイト入って…また夜勤に来たりしてましたよ。なんだか、焦っていたみたいです。


○焦っていた…?


●年齢もあるんじゃないですかね。ユリちゃん…確か大卒ですよね?


○ええ。東京理科大ですね。


●私、基本的に大卒って嫌いなんですよ。私が中学校卒業してすぐに働いたってのもあるかも知れないですけど、大卒の人って絶対に私のこと馬鹿にしてるじゃないですか?私、今のバイト先凄く長いんですよ?なのに後から入ってきた大卒の社員とか大学通ってる子とかがすぐ時給上がるんです。大学生同士で連絡取り合って、大卒以外を排除しようとしている動きあるかもしれないですね?藤田さんは大学出てますか?


○え!?いや…あの…恥ずかしながら…


●やっぱり大卒ですか?


○いや…いやいやいや。あの…勉強はさっぱりで…地元で1番偏差値の低い学校に…お情けで…


●なのにライターなんて大卒っぽい仕事してるんですか?嘘吐いてません?私のライブに来るって言ったのも嘘でしたよね?藤田さんは嘘吐くの兵器な人ですよね?それ嘘じゃないですよね?


○いや、本は昔から好きで。沢木耕太郎さんとか…佐野眞一さんとか…他には…あ、ムツゴロウさんが書くノンフィクションも好きで…好きが高じてみたいな…


●ムツゴロウさん以外の人、有名なんですか?


○はい…かなり…


●今、馬鹿にしました?


○はい?


●今、はいって言いましたよね?


○違います!違います。聞き返した感じです。


●やっぱりユリちゃんと同じ雰囲気ある…親戚ですか?


○違います。全然違います。


●なんだろう…その…ちょっと遠くから…触れられない所から馬鹿にしている感じがユリちゃんに凄く似てる。あの子、私の事馬鹿にしていたってさっき話したじゃないですか?だから私もずっと怒っていたんですよ。でも、やっぱり後輩に良くなって欲しいから、ずっとずっとライブハウスとかでも皆に話していたんです。


○何をですか?


●いや…大きな声じゃ言えないですけど、ユリちゃんって絶対に人の陰口言っているタイプだなって雰囲気あるじゃないですか?多分ですけど。だから…ライブハウスの店員とか、お客さんに前もって伝えていたんです。「ユリちゃんは人の悪口言う子だから気をつけて」って…他にも…ああ言う雰囲気の子って結構カジュアルに人の物盗んだりするじゃないですか。私もたまに共演者の化粧品とか小道具を借りたりしますけど、ユリちゃんって絶対盗んじゃう雰囲気漂ってる気がするじゃないですか?最初出会った時からそんな気がするんです。私の所にバイトに来て少しした時かな…私がスタッフルームに置かれてた小銭見つけて、ラッキー!って思って貰ったんです。それでユリちゃんも居たから少しあげようとしたら「そんなことダメですよ」って…たった4000円ですよ?それで1000円あげるって話をしたんですよ?普通は受け取ってそれでお互いにハッピーで牛丼に卵つけたりとかサイゼで生ハム食べたりとかするじゃないですか。それなのに偉そうに言うんですよ。やっぱり大卒だからですかね?そんな子って割と大きいお金平気で盗むでしょ?だからまた共演者とかに「あの子、物を盗むかもしれないから気を付けて」って伝えて…今度は私も馬鹿じゃないですから、共演者のちょっとしたお菓子を預かってあげて、信憑性をもたせたんですよ。その方がみんな自衛の気持ちとか出るじゃないですか?それで少しは信じてくれる人が出てきたんですけど…それでもユリちゃん何も変わらないんです。

 考えたら最初からおかしいですよね?人の親切を受け取れない人ってどこか壊れているじゃないですか?だから…ファンに刺された部分があるのかなって…今になってやっとそう考えられるようになりましたね…あの子、もっと良い子だと思っていたんです。基本的には良い子ですよ?でも、人を馬鹿にする所って全てを台無しにするじゃないですか?そんな部分…有ったんでしょうね…私は直接知らないですけど…人に殺される人ってそんな人だと思います…


○…………


●……?どうしたんですか?ポカンとした顔して。


○いえ、大丈夫です。あの…色々あるんだなあと思って…


●藤田さんの近くにもそんな人います?


○そうですね…いるかもしれないし…いないかもしれないし…


●普段はどんな事書いているんですか?


○今は健康系のコラムとか…後は…そうですね医療介護系のニュースとか書いたりしてますね。


●なんでそんな仕事選んだんですか?


○いや、大学でヘルスケアとかの事を勉強していたんですよ。


●大学!通ってたんですか!?


○いや、違います。ちゃんと聞いてください。大学なんて行ってないです。


●でも今、言いましたよね!?


○いや、大学って誰でも受けられる授業とか講座があるんです。興味があってそれに通っていて。


●本当ですか?


○本当です…


●………そうですか。今回はユリちゃんの事調べているみたいですけど、芸能の事とか書かないんですか?


○以前少し書きましたね、映画の雑誌に関わっていた事もありまして。


●じゃあ芸能人とかプロダクションの知り合いもいますよね!?なんで早く言ってくれないんですか?私、本気なんです。本気で売れるアイドルになりたいし、その資格もあると思うんです。そりゃ年齢は少し重ねているけど、そのほうが重みが出るじゃないですか?重ねると重いって同じ感じだし、ポジティブに考えれば私って経験者だから経験者として適切な売り方とかあると考えているんです。

 どなたか紹介してもらえないですか?本気なんです。ユリちゃんみたいなあんな女ばっかりでしょ?今売れている人って、全然違うじゃないですか!私、本気なんです。見た目だって割と気を遣っているし…自慢じゃないですけど、鏡を見ていると「あれ?私10代っぽい?」って思える瞬間もあるんです。

 …失礼な事ばかり言ってしまってごめんなさい…もう…最初から言ってくださいよ。どうしたら紹介してくれますか?アップフロントとか紹介してもらえますよね?私、こんなに協力しているし、今日だってライブに来なかった藤田さんを許したじゃないですか?こんな優しくてちゃんとしてる子って近頃少ないでしょう?あ…もちろん…私も…ちゃんとお返ししますよ?ちょっと…耳貸してください…


○はい…?


●フェラだけだったら…良いですよ…


○結構です。


●旦那なんて仕事から帰ってきたらすぐに私の前にオチンチン出すんです。それだけ私、上手なんです。それにオチンチン…嫌いじゃないんです。


○結構です。


●真面目なんですね。凄くステキ、そんな男性…今まで会ってこなかったかも。あーあ、私の旦那も藤田さんみたいな人だったら良かったのになあ…内緒ですけど…結構モテるんです。この前のイベントでもツーショットチェキが3枚も売れて…もちろんほっぺにチューとかしてあげたりしましたけど…それって軽いファンサじゃないですか?ああ、ファンサってファンサービスですよ?藤田さん…凄くステキだし…今からでも良いですよ?


○結構です。


●良いじゃないですか。それで、気持ち良かったらで良いから事務所とか誰か紹介してくださいね?約束しましたからね?約束破ったら知らないですよ?ユリちゃんみたいに色んな人が離れていくかも知れないですよ?ユリちゃんの場合はあの子自身の性格が悪いって言うのもあるかもだけど…でも、私も結構…権力持ってますからね?マイミクも650人いるんです。怒らせないでくださいね?


○わかりました、また、また後日にしましょう。今日はちょっと別件が…


●事務所の人と会うんですか?


○ええ、まあ、そんな所です。


●じゃあこれ!これ相手に渡してください!


○これは…?


●これ、前にリリースしたCDです!「らぶまな☆1000%」です!この一曲目ね…ちょっと…耳を貸してください…この曲ね、処女喪失の歌なんです。


○そうですか…


●もちろん事務所の人に渡してくれたらユリちゃんのことや犯人の事もお話ししますよ?そこはギブアンドテイクです!それに…本当に…ムラムラしちゃったらいつでも連絡してくださいね?その代わりちゃんと事務所の人に私の事を話してくださいね?


○……まあ、そこは、ね。まあまあまあ。


●あ!忘れてた!


○なんですか。


●そのCD、2500円です。


~メモ~

井上友里恵はどこまでも人に恵まれていないみたいだ。

ひどい状況だった。ダニー・デヴィートに似てる女は怖い。

しかし少しわかった事がある。孤立していた。この場合は孤立させられていたと言うべきか?

どこまで本当なのかはわからないが芸能の話をチラつかせたらもっとペラペラ話してくれそうだ。


本当に気分が悪い。明日も病院だ。本当に気分が悪い。瘴気に触れてしまったからか。


大学、やばかった。大した事ない大学だけど言えないな。

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