貴方の人生が一番輝いていたのはいつですか?

 本作を読み始める前に、レビュータイトルに対する答えを考えてみて欲しい。

 迷い無く「今」と答えられる人にたぶん本作は合わないだろう。「小どもの頃」と答える人も違う。「大学生の頃」や「高校生の頃」と答える人ならばきっと楽しめる。「中学生の頃」と答える人はドンピシャだ。なぜなら、この作品の主要登場人物たちもそう思っているはずだから。あらすじには「光り輝かない青春時代」と記してあるが、タイトルの「GOLDEN」がイメージするものは「人生の黄金期だった中学時代」だろう。少なくとも僕はそう感じた。

 物語の軸となる登場人物は二人。中学時代は破天荒だったけれど現在では普通の派遣社員に落ち着いたヤッスンこと安河内。そのヤッスンの中学時代の友達でありどこか人とは違う雰囲気を放っていたヒロポンこと梅原。そして物語の軸となる出来事は「大人になった梅原の自殺」である。

 物語は「梅原の語り(中学時代)」→「安河内の語り(現在)」→「梅原の語り(中学以降、現在以前)」というサイクルを繰り返して進んでいく。視点と時系列があちこちにブレるので正直分かりにくい。一人称が共通だったり、中学時代の梅原視点から語られる安河内と現在の安河内が全く違うのも分かりづらさを助長している。しかし僕はこの流れこそが本作の肝であり、作品を心に深く染みるものにしている最大の要因だと思う。

 まず中学時代から現在。中学生の安河内がバカでアホで頭のネジが外れていてこいつどんな大人になるんだと期待半分心配半分を抱かせるようなキャラクターなのに対し、実際に大人になった現在の安河内は驚くほど常識人で一般人。この変化が「誰もがいずれは大人になる」という現実を読み手につきつける。当たり前すぎてどうしようもない、切ない現実だ。

 その切ない現実をつきつけられた後、中学時代と現在の狭間にいる梅原の語りが「当たり前の現実に当たり前に対応できる人間ばかりではない」というさらに切ない現実をつきつけてくる。誰かや何かが悪いわけでは無い。ただ人生に適応出来ないだけ。いずれ自死すると分かっている人間の語りが、読み手の心にずしりと圧し掛かる。

 そして中学時代に戻る。心が軋む音が聞こえて来そうな重たい語りの後、同じ人物の口から青春時代を謳歌する様が語られる。これが刺さる。彼の結末を「どうして」と思わずにいわれない。きっと、理由なんてないのだろうけれど。

 凝った構成に確かな筆力を乗せ、「生きることは楽ではない」「それでも生きていかなくてはならない」という相反する二つの現実を心に直接語りかけてくる青春小説。人生がどうにも上手く行っておらず、学生時代を思い出して「あの頃は良かった」なんて考えがちな人に是非読んで欲しい。それでも僕たちは、生き残らなくてはならない。

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