アイテム辞典プレイバック1
「クソっ!一体何匹居やがるんだ!?」
襲いかかってくる魔物を二匹まとめて薙ぎ払う。小鬼とも呼ばれる、ゴブリンと言う魔物だ。
派手な火花が散り、斬撃を受けた小鬼たちはそのまま倒れ伏す。
次いで横から近づく一匹を、足の裏を使い蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした相手に追撃するべく踏み出すが、しかし更に二匹のゴブリンが立ちふさがり、行く手を阻まれてしまう。
おかしい、一向に数が減らない。
今日は特に難易度も高くない魔物討伐の任務の筈であった。昨日手に入れた掘り出し物の魔法剣の試し斬り程度に考えていた。
しかしこの魔物達、倒しても倒しても際限なく現れるのだ。
近くに大規模な巣がある?それとも何者かが召喚している?
これは異常だ、一度引いて応援を――
そう思い退路を確認した、その隙に一匹のゴブリンが迫る!
「しまっ…!」
グシャアッ!
しかし突如出現した棒切れが顔面に突き刺さり、砕けたのはゴブリンの頭の方であった。
脇の林から現れた男は棒切れを振るい、もう一匹を叩き伏せる。男Aである。
「なにを遊んでるんだお前は?」
「兄貴!気をつけろ、こいつら次々に現れやがる!」
手近な一匹を斬り倒しながら男Bが叫ぶ。
「いや…斬れてないぞそれ。」
「え?」
確かに袈裟斬りにした筈のゴブリンだったが、直ぐに立ち上がりまた短剣を構え始める。
よく見れば、周りに倒れているのは先程男Aが叩き潰した2匹のみである。
「まさか斬撃無効・・・」
ズバァッ!
言い終わる前に男Aが抜いた剣に真っ二つにされるゴブリン。
一人の人間に3匹の仲間が倒され勝ち目がないと感じたか、残りの魔物は一目散に逃げ出していった。
「2匹逃げたか、まあ問題ないだろう。」
つまり男Bは正味5匹のゴブリンと延々と戦っていたわけである。
あーあ、結局汚れちまった。などと言いつつ剣の血を拭き取る男A。ここまで剣を抜かず、棒切れ一本で魔物の群れを叩きのめしてきたらしい。
男Bは信じられないような顔で自分の剣を見つめ、呆けている。
「魔法剣とか言っていたな、その剣。」
「ええ、斬る度に火花が散るというものなんですけど。」
「戦場でそんなビカビカ光ってたら格好の的だぞ、そもそも・・・」
男Aはその剣の刃先に指を沿わせる。
刃物特有の引っかかりは何も感じられず、信じられないくらいツルツル滑る。そして刃を擦る度に数個の火花が散っている。
「全く切れないぞこの剣は、一体何なんだこれは?」
■解説■
【切り裂く力を火花に変えるその名もスパークブレード!】
その名の通り、切る力を全て火花に変換してしまう剣。それ故に全く何も切ることはできない。
生み出された火花は火属性の攻撃になり得るが、広く拡散してしまうのと一瞬で消えてしまうため着火などには繋がりにくい。
命名者:コナード
ーーーーーーーーーー
「兄貴、ここです!」
「こんな所に本当に店があるのか・・・ん?」
男Bに連れられ、地下に続く階段を下りる男A。
やがて壁にたいまつの掲げられた通路へと辿り着く。
外からの光はそろそろ届かなくなる。
と、そこには場違いな感じで置かれているテーブルが一つ。
その上には火の付いていないたいまつが数本、1枚のメモと共に置かれていた。
[ご自由にお使いください♪ -コナード魔法具店-]
「ふざけやがって・・・!」
男達はたいまつを1本ずつ持ち、壁で燃えているたいまつから火を移すと先へと進んでいった。
■解説■
【たいまつ】
棒状のものの先端に布などを巻きつけ、油を染み込ませた道具。
ここに登場したのは布側に『消耗軽減』の魔法が付与されており、油を足さずとも12時間は燃え続ける優れもの。
また棒側には『熱光変換』の魔法が付与されており小さい炎で大きく照らすことができる。
以下はそれを知ったときのミナミのセリフである。
「普通のたいまつで良かったんじゃないですかね。」
ーーーーーーーーーー
「ちょちょいのちょいっと」
魔方陣の描かれた布をテーブルの上に広げ、その中心に置かれた小瓶にコナードさんが
呪術的な意味を持った言葉なのでしょうが、私には良く分かりません。こんにちはミナミです。
「はい、ご注文の通り『闘争心が強いほど認識されない塗料』の出来上がりです。」
『
本日のお客様はイド国の小隊長さんだそうです。
「ありがたい、しかし私がこれを買ったということは内密に・・・」
「もちろん!ブラバス様に限らず、お客様の情報は絶対に口外致しません、それは信頼して頂いて結構です。」
口八丁手八丁でお客様の名前や所属や役職を聞き出したのは他ならぬコナードさんなわけですが、そこは言わないでおきましょう。秘密を守るのは本当だと思いますし。
お買い上げありがとうございます。
その後、このインクで鎧を塗装したブラバス隊長は戦争(メプティ国とは別)で神出鬼没の活躍をとげ、幻の
■解説■
【
『訴求』の魔法が付与された塗料で、予め設定した条件に従って、見るものの注目度や興味関心の度合いを補正することができる。
これは『認識阻害』や『
なお意識を逸らすようにした上で解除条件を設定しないと、使った本人でも「そんなものもあったような・・・」みたいな扱いになるので、へそくりを隠すのに使うなら注意が必要。
ーーーーーーーーーー
「〜♫」
姿見の前で1回転。スカートがふわりと広がり、健康的な脚がチラリと覗く。
その身に纏うのは、質素ながらも可愛らしいデザインのエプロンドレスである。
旅の間はずっと機能的な革の服と軽装鎧だったので、こんなに女の子らしい服装をしたのはずいぶん久しぶりだ。
ミナミが初めて店にやって来て、支給された服に袖を通した時の事である。
「店長さん、かわいい制服ですね!」
ルンルン気分のミナミとは対象的に、コナード店長は渋い顔をしている。
「想像していたのと違う…」
「はい?」
「もうとこう『屈辱だ…この私がこんな格好を…でも…こういうのも…エヘヘ』みたいな葛藤を期待していました。」
最低な理由である。
「わたし騎士でもなんでもないし普通に可愛いもの好きですし。」
無表情で言うミナミ、ちょっと仕事選び失敗したかなという気持ちが去来する。
しかしコナードが本気で言っていないことは何故かなんとなく分かった。おそらく二人の距離を縮めるためのジョークであろう。
「さて、それではお仕事を始めましょう。それとミナミさん、私のことは店長ではなくコナードと呼んでくださいね。」
名前で呼び合うことも親密になる1つの手段である。
ともあれ雇用主が自分とフレンドリーに接してくれるというのであれば、それは歓迎しても良いだろう。
「はい、コナードさん。私頑張りますね!」
■解説■
【
コナード魔法具店特製のエプロンドレス。
若干ではあるが嘘を看破する能力があり、これはコナードがあること無いこと織り交ぜて話す癖があるからである。
とはいえ本気で騙そうとしてきた場合にはそれを防ぐことはできない。
男性用のものもある。(エプロンドレスではない)
コナード魔法具店へようこそ Enju @Enju_mestr
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