第4話 無傷の鎧

「店主は居るかね」

服に付いた埃を払いながら、その客は尊大な態度でそう言い放った。

見るからに身なりの良い男で、軽装の騎士のような従者を従えている。

「どうもどうも、ようこそいらっしゃいました私が店主のコナードと申しますよろしければこちらへ。」

扱いの難しそうな客への反応が瞬時にできるのは流石であろう、流れるような対応で商談スペースのテーブルまで誘導する。

某公爵家のナニガシであるとの名乗りに、大げさに驚き、またかしこまり煽てあげるコナードの話術にすっかり気分を良くしたようだ。お付きの騎士は「あーあ」という顔になる。

以下、目の合ったミナミと騎士のアイコンタクト。


ミナミ(すいませんこんな感じの店主で)

騎士(いえいえ変に機嫌悪くなるよりは全然ましなので)

ミナミ(大変ですね)

騎士(お気遣いどうもです)


「それで本日はその初陣に相応しい装備をお求めにいらっしゃったと。」

「うむ、話が分かるな。『伝説の武器から薬草まで』などと謳っているのであれば我に相応しいものを用意してみせよ。」


話を総合すると、もうすぐ戦争に行かなきゃいけないけど怖くないけど怪我するの嫌だし訓練で兵士に勝てないし、そういうの全部道具のせいだからなんとかしろ、という話である。

喋っている内容の8割ほどが自慢話であり要点を得ないが、コナードに話を誘導されたおかげでもあって、概ねそのような内容であったことが辛うじて分かる。


「お任せください!当店においても唯一の品、ナニガシ様にお譲り致します!いえぜひナニガシ様に使っていただきたい!」


唯一の品、と言っても店にあるものは大体一品物なのだがそこは言いようである。コナードは奥から仰々しい箱をこれまた仰々しく持ち出し、中のものを取り出した。


「…おお!」


それは鎧だった。

各部に宝石が埋め込まれ、装甲板が反射する光は虹色に偏光している。一見すると派手だが、悪趣味にはならない程度にまとまったデザインである。

「この鎧、なんとその名も『無傷の鎧』!この素材より硬い武器でなければ傷一つ付かないという強力なもの!」

「素晴らしい!これぞまさしく我の為の鎧!頂こうじゃないか!」

「まいどありがとうございます!」


商談はスムーズに終了し、ナニガシ氏は満足そうに店を退出していった。騎士は再度鎧を収納した箱を背中に担ぎ、店を出る際に軽く会釈。なお目は死んでいる模様。


<<この素材より硬い武器でなければ傷一つ付かない>>


騎士(訓練に使うのは木の剣なのでお気になさらず。)

ミナミ(お疲れ様です、実戦はどうなされますか?)

騎士(どうせ前線には立ちません、それでは。)

また目で会話する騎士とミナミ。


扉が閉まり、一息する。


「コナードさん今回はずいぶん酷いのでは。」

「違うんです、あれをフックにして別のちゃんとしたものを紹介する予定だったんですがまさかあれで納得するとは」

「公爵家の方ですよね、怒らせたらまずいのでは?」

「まあ大丈夫でしょう。」


後日、ナニガシ氏が訓練で怪我をしたという情報が届いた。


続く。

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