第2話 切り裂く力を火花に変えるその名もスパークブレード!
「あ、いらっしゃいませー」
そこまでのダンジョン然とした雰囲気から打って変わって、明るい声が男達を迎える。
扉の先にはアンティーク店の如くに色々な道具が陳列されており、その一つを磨いていたエプロンスカートの女性が手を止め、パタパタと足音を立ててやって来た。
「そちらの方は先日もいらっしゃいましたよね。本日はどのようなご用件で?」
にっこりと笑う店番の女性は少女と言っても良い容姿で、意気込んで来た男は少々毒気を抜かれてしまったようだ。
「返品だ。」
それだけ言うと、ベルトから剣を鞘ごと取り外してテーブルの上に放り投げた。
「これはーー」
「切り裂く力を火花に変えるその名もスパークブレード!じゃないですか。」
店の奥から店主らしき男が現れ、そう言う。糸目に丸メガネ、妖精族の血が入っているのか耳がやや長く、青年のようにも見えるが年齢を推し量れない佇まいだ。
「何がスパークブレードだ!ガラクタを掴ませやがって!」
客としてやってきたもう一人の男が騒ぎ立てる。男Bと呼ぼう。
「ノン、ノン。『切り裂く力を火花に変えるその名もスパークブレード!』と呼んでくださいね。」
気に入っているのか何なのか、正式名称を推す店主に対し、
「商品名はどうでもいい。」
剣を持ってきた男が脱線しそうになる話を引き戻す。なおこちらが男Aだ。
「問題はこいつがどうしようもないナマクラだと、いうことだ!」
男Aは放り投げた剣を再び掴むと、そう言いながら鞘から抜き放ちテーブルを思い切り斬りつける!
と、斬りつけた箇所から水飛沫の如く火花が溢れ出し、部屋の中を一瞬照らし出す。しかし木製のテーブルには傷一つ付かずにただ軽く焦げ臭い匂いを残すのみであった。
「ご覧の通り、切れぬ剣に用は無い。」
しかし店主は全く引かず、
「何を仰います、『切り裂く力を火花に変える』と言っているじゃないですか。切る力を全て火花に変換しているのに物が切れるわけないでしょう。」
「それでは意味が無いと言っている!」と男A
「魔法の効果には納得されてご購入頂いたはずですが?」
「火花が出るのは分かったけど代わりに切れなくなるとか思わねえよ!」と男B。
「あのぉ~、ちょっと使わせてもらっていいですか?」
男3人がギャースカと言い合っている中、飛び交う言葉に合わせて首だけ左右に動かしていた店番の少女が、呆れたように剣を手に取った。
スゥ、と朗らかな雰囲気が消え鋭い目つきになる少女。
思わず男AとBが身構えようとした瞬間、先程とは比べ物にならない量の火花が部屋中に満ち溢れた。
その閃光は目を焼き、息を呑めば吸い込んだ火花が肺を焼き、火花が煙に変わりその煙が晴れるまでの僅か数秒の間に、客の男ふたリは完全に体の自由を奪われてしまった。
「・・・と、こういう感じで使うものだと思うんですよ。」
またにっこりと笑いながら剣を鞘に収める少女。切る力が火花になるとすれば、男Aの数倍、数十倍の威力の斬撃を放ったことになる。
「ミナミさん、先に言ってくれないと僕まで被害来るんですけど。」
そう言いつつも、どこから取り出したのか傘を広げて身を守っていた店主。
「コナード店長なら大丈夫だと思って。あ、お客さんたち大丈夫でした?」
「げほっ、ミナミと・・・コナード・・・?」
徐々に復活してきた男Bは二人の名前に覚えがあるようだ。
「剣神ミナミと・・・傾国の詐欺師コナード・・・?」
「「そういう恥ずかしい名前で呼ばないで貰えますか」」
声を揃え、じゃきん、と剣の鞘と傘の先端が男Bに突きつけられる。
どうやらこの二人、二つ名で呼ばれる程の人物であるようだ。恥ずかしいらしいが。
「わはっはっはっはゲホッ、わっはっはっは!」
いまだに少々咳き込みながら男Aが豪快に笑う。
「店長殿、確かにこの『切り裂く力を火花に変えるその名もスパークブレード!』、我々には使いこなす技量が足りませなんだ。先程申し上げたとおり返品致します。」
さっきまでと全く違う調子になる男A。何かに得心が行ったようだ、それが何かは分からないが。
「あ、はいそれじゃお代をお返ししますので。」
「それには及びませぬ、それはお騒がせしたお詫びとさせて頂きたい!おい行くぞ!」
「え?あ、ちょっと兄・・・」
男Aはいまいち納得していない・・・というか状況を把握しきれていない様子の男Bを連れて帰っていった。
「・・・なんか知らないけど儲かりましたねコナードさん。」
「そうですね、ところでミナミさん。」
「はい。」
「商品の中にはデリケートなものも多いです。」
「・・・はい。」
「さっきの熱で焼けたり変質したりしたものが無いかチェックしてくださいね。」
「・・・はい(涙)」
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