第6話 最強の剣
こんにちは、ミナミです。この店を訪れるバラエティ豊かなお客様にも大分慣れてきました。
「たのもう!ミナミ殿はいらっしゃられるか!」
が、その日のお客はいつもと少し違っていました。
「ミナミは私ですが・・・?」
「貴女が・・・いや失礼、私はイド国の将軍ティールと申す者、本日はミナミ殿に格別のお願いがあって参りました。」
一言で言うと、スカウト。
この地域で戦争を始めようとしているのが、ティール将軍の居るイド国と、隣のメプティ国。戦力が拮抗している両国は何か均衡を打ち破る要素を捜し求めているそうです。先日メプティ国のナニガシさんに渡った一品は、十分にその力を持っているのですが、それを敵国が知る由もなし。
なお、戦争の原因は領土問題であり、この店もちょうどその問題となっている領土内にあるのですが、この辺りは目立った資源があるわけでもないので割りとどうでもいい扱いになっているみたいです。なので両国の人間が結構気軽に訪れています。
「でも何で私に・・・そんな兵士が足りていない訳でもないでしょう?」
「何を仰いますか!剣神ミナミが我が軍に付いたとなれば千の兵よりも価値のあること!」
「ああ~~!」
思わず頭を抱えてしまいます。
「あのすいません私全然そういうんじゃないんで・・・ぶっちゃけ唯のザコなんで放っておいてもらえませんか」
「はっはっはご謙遜を、ミナミ殿の名声は言うに及ばず、その腕前も先日私の部下がしっかりと認めております!」
「あああ~~!」
再び頭を抱えてしまいました。その部下って男Aじゃないですか、ただのチンピラ屋さんだと思ってたのに将軍の部下って。
「えっとお・・・剣神っていうのは、町の剣道場をやっていた私の父が急にトチ狂って名乗り始めただけで・・・それが恥ずかしかったんで父を一度ぶちのめしたら『今からお前が剣神だ』とか言い出して・・・もう耐えられなくて家を飛び出した感じなんで本当勘弁して貰えませんか・・・」
「しかしその後、鬼、竜、巨人、悪魔、天使の5種を討伐し
おられますよ畜生。いやでも本当にそれぞれ1個ずつは大したこと無いんですよ助けてコナードさん。
助けを求めて送った目線のその先で、コナードさんはちょっと引いていました。おのれ傾国の詐欺師。
「ま、まあまあ。本人も嫌がっているようですし、何よりウチの従業員ですから連れて行かれると私も困ります。」
「しかし・・・」
なおも引き下がるティール将軍。
「なので代わりにこちらの商品をお買い上げ頂くのは如何でしょう?」
コナードさんが取り出すは、一振りの大剣。
「こちら伝説の『最強の剣』になります。」
凄く怪しげなものを見る目になるティール将軍。分かります、私だって怪しいと思います。
でも先日、まさに伝説の鎧を目にしたのです、この店で。もう一個くらい何か出てきても不思議じゃない。
「『最強の剣』といえば、鉄と刃物の神カペルが作った100万本の剣の中で最も強い力を持つ剣。その刃はあらゆる存在を切り裂き、また斬りたい物だけを斬ることもできる、と言われていますね。」
「さすが将軍、良くご存知で。この剣こそがその『最強の剣』、持つ者が斬りたいと思えば斬れぬものはありません!」
「ご主人、確かにその剣が実在するのであれば、ミナミ殿に匹敵する力にはなりますな。」
私なんかを伝説の剣に匹敵させないで欲しいです・・・しかしここは黙って成り行きを見てみましょう。
「やはり信じては頂けていないご様子ですね。それでは何か試し切りでも致しましょうか?」
「よろしい、それではこれを斬って頂きましょうか。」
ティール将軍が懐から取り出したのは、皮の水袋でした。別にこんなもの普通の剣でも斬れるのですが・・・
「この袋を斬って頂きたい。中の水は切らずに。」
とんちかよ。
なんだか凄い『うまいこと言ってやったぜ!』的な顔をしているのでイラッとしますね。もし本当に『最強の剣』だったとしても水が切ったか切れなかったかなんて分からないでしょう、別にコナードさんを言いくるめたところで私が同行するわけではないですが。
それにコナードさんが言い負かされるとも思えません。やっちゃってください店長!
「お安い御用ですね。」
私の予想とは異なり、コナードさんはあっさり剣を抜くと軽く横に振りました。
スッ、と剣が横切り、ぱらりと袋の切れ端が床に落ちました。
水は袋の形のまま宙に浮いています。
「え」
「え」
まさかの結果に固まる私たち。
「ミナミさん、バケツを用意して貰えますか?」
「あ、はい。」
コナードさんの声で我に返りました。ティール将軍は水袋の片方を持ったまま呆然としています。
浮いている水の下にバケツを置き、剣を鞘に収めた”キンッ”という音と共に水は落下し、バケツに収まりました。
ちなみに将軍はビクッとしていました。
その後、信じられないものを見たという感じのティール将軍は『最強の剣』を無事購入し呆然と帰っていきましたとさ。
「コナードさん・・・」
「何ですか、今回も正真正銘の伝説の剣ですよ。手品とかじゃないし命も吸いません。」
「そうじゃなくて・・・何者なんですかアナタ?伝説の武具をホイホイと。」
「それは私の方が聞きたいですね、何ですか
「それは天使なんてそうそう居ないし・・・いいじゃないですかもう!でも無敵の鎧と最強の剣が戦争に使われちゃったら・・・あれ、あの二つがぶつかるとどうなるんですか?」
「ふふふ、それはですね・・・」
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