第7話 閉店、そして。

「『無敵の鎧』に『最強の剣』で斬りかかったら?

 その正解は『そうならない』です。分かりましたか?」

「分かりません説明してください。」

分かるはずがない。そう返されるのを想定していたのか、コナードは説明を始める。

「ポイントは『神代の時代の遺物である』、『相容れない2つの"絶対"を冠していること』の2点です。これらを満たすアイテムは全て運命の神イオティスの管理下にあります。」

「分かりません説明してください。」

繰り返すミナミ。

「物を投げたら飛んでいくとか、全く明かりの無い場所のものは見えないとか、イオティスはそういったこの世の法則を司っていて、間違いが起こらないように常に監視しています。『無敵の鎧』に『最強の剣』で斬りかかるというのはその間違いに入るんですね。」

「良くわかんないです・・・結局どうなるんですか?」

「イド国とメプティ国が和解して戦争が無くなります。」

「まじで?」

「まじで。」

「もし、それでも何かの理由で二つが衝突した場合は?」

「この世のあらゆる法則が瓦解して世界は塵に帰ります。」

「まじで?」

「まじで。」


理解の範疇を超えたーとばかりに、どさりと椅子に身を投げるミナミ。

「さて・・・、お店を畳む準備をしましょうか。」

「あれ、今日はもう閉店ですか?」

「『今日は』ではなく、この場所から引き上げる準備です。」

「え?え?」

「実を言うと、イド国とメプティ国の戦争止めるのがこの店を構えた目的だったのですよ。なかなか楽しい経験でした。」

「え、なんで、どこに行っちゃうの」

不意に訪れた別れの予感、ミナミは思わず子供のような喋り方になってしまう。実にまだ彼女は少女なのだ。

「世界平和のためとでも言いますか・・・これから後は何も決めていないですが、ミナミさん。」

「ひゃい。」

泣きそうになっているミナミはそんな返事しかできない。

「貴女と一緒に居ると楽しいです。この先も私と一緒に来て貰えませんか。」

「え、プロポーズ?」

「違います」

「違うのかよ!」

しみったれた空気が全部吹き飛んだ。

「そう、そのツッコミが私は欲しい。」

「最初の時から思ってたんですが、なんでそんなツッコミ重視なんですか?」

「世界を構成する26要素の一つだからですね。」

「ぜったい嘘だ。」

「まあまあ、私は詐欺師コナーティストですから。」


ーーーーーーーーーー


「よし、荷造り完了!」

ダンジョンじみた地下倉庫の入り口に、荷物が山盛りになった荷馬車がひとつ。

「そういえば何でこんな所にお店を作ったの?」

「ダンジョン内は基本的に治外法権ですからね、戦争に使うから店のもの全部強制徴収だ――なんてのを避けるためです。」

「そうなってもコナードさんなら『最強の剣』だけ押し付けて逃れそうだけどね」

ミナミが無邪気に笑う。

「ごもっとも、ところでずいぶん親しげになりましたねミナミさん。」

「えっと・・・だめ・・・でしたかね・・・」

顔を赤くしてもじもじするミナミ。

「いえ、好ましいですよ。それじゃ出発しましょう、とりあえずはルーン国にある私の別荘に向かいますよ。揺れますのでつかまって!」

馬に鞭を入れて馬車を動かすコナードと、その腕にしがみ付くミナミ。

「ねえコナードさん、楽しかったんでしょ、またお店やろうよ!」

「ええ、それもいいですね!」


それからしばらく後、そこから遠く離れた町に一枚の張り紙が張られる。

『伝説の剣から薬草まで何でも揃う、コナード魔法具店!』

その示す場所に行けば、愛らしい看板娘と聡明な店主、そして様々な魔法の品があなたを出迎えてくれることでしょう。


「コナード魔法具店へようこそ!」

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