人間がいる限り。

面白かった。すごかった。どんどんと作品の世界に引き込まれ、中盤からラストまで一気に読んでしまった。

……やはり。読了後なかなか言葉が出ず一日置いてみたが、あまり変わらなかった。かといって、数か月おいてからレビューを考えても同じ気がするので、今書こう。


さて、本作はIS(イスラム国)を題材にした現代ドラマ。
『テロとの戦い』を描いた、というより、『テロから見える様々な人々』を描いた作品といった感じだ。

空爆で弟を失いISへと入ったエルカシュ。
エルカシュの親友であるが、難民としてドイツへ行ったウマル。
表の世界で活躍する圭吾と、裏にいるイザ。
そして、いつの間にやら事件に巻き込まれた友香。

彼らがそれぞれテロに対して、どう思っているかとか思っていないとか、巻き込まれてどうするのかしないのか。

境遇が違えば、見えるものも違う。境遇が同じっぽくても、見えるものが違うこともある。

ただ、人間はたいていどこかしら共通する感情を持っている生き物だ。
愛する人を奪われ、殺されたら悲しむ。憎しむ。殺し返そうとする。

テロリストだから……テロリストだからこそ、彼らは人間なのだ。

テロ行為を行うことは、人間を捨てることではない。
そこに人間が、人間の感情があるからこそ、テロは……

現在、ISは壊滅状態だそうだ。
ただ、その根本を解決しなければ何にも変わらないのかも知れない。

そこに、人間がいる限り。人間を痛めつける問題がある限り……



膨大な知識量から構築されたリアリティーは、毎度驚きを受ける。
本作を読む前に、『銃と刃と八百万の神』という同作者の別作品を読んだときに感じた時のものと同じくらいのものだ。
設定が細かく、どこまでもズームしてもぼやけない世界がここにある。

個人的に『銃と刃』では圭吾の活躍が印象深かったが、本作ではイザがめちゃくちゃ格好良くて、惚れ直しました。
『銃と刃』で、イザと圭吾のキャラクター性は前知識としてあったので、2人のちょっとした行動とかで、あぁ、と。
知っているキャラクターたちが活躍する物語ってとっても面白いんだって思いました。

本作で好きなシーンはいくつか、というかいくつもあって。kindle で読んでいたら、きっとハイライト引きまくりだったかもしれません。

イザと友香が香港に行くのだが、友香の行動力というか、イザが押され気味だったのは好きですね。友香みたいな活発な女性っていいですね。元気もらえそう。
クライマックスでの友香のセリフ。彼女らしくて、好きな女性キャラを言ってと言われたら、ここしばらくは「友香」かな、って言いそうです。

伏線の張り方も、回収もうぉぉぉってものばかりで。やばかった。

やばい、映画館でこの文章そのまま上映してもいいんじゃないかってくらい、やばい。自分が何言っているのか、一番やばい。

登場人物たちはこれから、どのように生きていくんだろう。
きっと悩む、悩み続けて、自分なりの答えを出しても過去にとらわれ続けていくんだろう。
エルカシュ、ウマルは今、何してんだろう。
本作はフィクションなので、こういうのはアレだが、IS壊滅の情報を受けてどう思ったんだろうとか。
友香はまだ独身なんだろうかとか。イザは娘と同じ距離のままなのかなとか。

彼らがきっと笑っていられる、そんな世界になっていたらいいなぁ。

そんなこんなで、レビューの最後です。本当は★つけるとき、+ボタン連打したかったのですが、押しすぎると★1に戻ったりしちゃうので、2回だけ押しました。めちゃヤバで、面白かったです!

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