小説を読んでいるという感覚が無く、まるで一本の映画を見ているかのようでした。
日本で起きた横領事件と、海の向こうで計画される同時多発テロ計画。
一見なんの関係性も無いように見える二つの事件。この二件の繋がりが徐々に明白に、形が見えていく様は、ただただハラハラして、目が離せなくなります。
溜めて溜めて、二つの事件が完全に繋がったとき、「溜め」が一気に爆発します。その時の気持ちといったら、言葉では形容しがたいです。
計画されている事件の全容が徐々にわかっていく様と、事件に徐々に近づいていく様にも、また目が離せません。
そして終盤の凄まじい疾走感と臨場感。
その気持ち、本当にダイレクトに味わうことが出来ます。
自分が本当にその場にいるような、現実味のある緊迫感とスリル。
ぜひとも読んで体験してほしいです。
タイトル回収のタイミングも見事としか言えません。
回収に、ここ以外でぴったりな場面は無いというほどベストタイミングです。
と、ここまで色々書きましたが、この小説が伝えたい事は、「当たり前の事だけれどとても大切なもの」です。
それは一見小さいように見えて、でもとても大きく、生きる上で私達にとても
必要なもの。
ここに出てくる登場人物を通して、それを知る事が出来ます。
人を憎む気持ちは誰にでもある。
誰でも、争いを起こしかねない火種を持っている。
復讐の心を持つことは当然のこと。そしてそれを頭ごなしに否定することは誰にも出来ない。
でも憎しみの裏、根本にある思いは誰でも同じ筈。
幸せに、過ごしたい。何でもない日常を、繰り返したい。
その日常を大切に想う気持ちは誰でも同じ。
詳しい事は言えないのですが、終盤、息も詰まりそうな緊張感と疾走感の中で、
そのことがよく伝わる出来事が起こります。
憎しみからは憎しみしか生まれない。
その連鎖を断ち切ることは至難の業。
色んな場所で争いが起きている。
でも、人は悪いところも、良いところも、皆同じ。
どんな遠くの国にいる人だって、それは変わらない。
そういったことが、よくわかります。
人は皆、同じ思いを抱いているのだと。
いつの日かきっと、憎しみの連鎖を断ち切れる日が訪れるはず。
世界各地で起こっている争いが無くなる日が、訪れるはず。
読後、興奮が段々と治まってきた心に沸いてきたのは、
そのような純粋な「希望」でした。
なんだか敷居が高そうと、尻込みしている方。読まないと絶対に損です。
読んだ後、この小説に出会えてよかったと、心から思うはずです。
この一つの小説から、実に多くのものを学べます。
そして、唯一無二の大切な事を、改めて実感できます。保証します。
もう一度言います。ぜひとも、その目で実際に、読んでみて下さい。
なんだか1つの映画を見ているような、そんな小説。
序盤は流れ的には冗長に感じる部分もなくはないが、それは後々のための布石。後半の凄まじい疾走感と緊張感のための伏線に過ぎない。
...過ぎないはずなのだが、それはそれ。話の流れが平坦だからこそ、作者様の豊富な知識や綿密な調査による圧倒的リアリティが匂い立つ。
ここまでは小説的視点だったが、中身も凄い。
手軽に書けるという部分が脚光を浴びるネット小説の界隈でまさかシリアやISを題材にした作品があるというのに驚いた。
久々にネット小説の「作者がいくらでも拘って世界を創れる」という特徴が前面に、いや全面に出た作品を目の当たりにした気がする。
作中人物の平和への考え方なども心に過るモノがあり、エンターテインメント性だけに囚われて作者の魂が入ってない小説とも一線を画している。
ネタバレしたくないので内容に言及できないのが残念だが、このようなレビューを読む程この小説に惹かれた方は一読してまず損はないだろう。
是非あなたの常識をひとつ、壊してみてほしい。
面白かった。すごかった。どんどんと作品の世界に引き込まれ、中盤からラストまで一気に読んでしまった。
……やはり。読了後なかなか言葉が出ず一日置いてみたが、あまり変わらなかった。かといって、数か月おいてからレビューを考えても同じ気がするので、今書こう。
さて、本作はIS(イスラム国)を題材にした現代ドラマ。
『テロとの戦い』を描いた、というより、『テロから見える様々な人々』を描いた作品といった感じだ。
空爆で弟を失いISへと入ったエルカシュ。
エルカシュの親友であるが、難民としてドイツへ行ったウマル。
表の世界で活躍する圭吾と、裏にいるイザ。
そして、いつの間にやら事件に巻き込まれた友香。
彼らがそれぞれテロに対して、どう思っているかとか思っていないとか、巻き込まれてどうするのかしないのか。
境遇が違えば、見えるものも違う。境遇が同じっぽくても、見えるものが違うこともある。
ただ、人間はたいていどこかしら共通する感情を持っている生き物だ。
愛する人を奪われ、殺されたら悲しむ。憎しむ。殺し返そうとする。
テロリストだから……テロリストだからこそ、彼らは人間なのだ。
テロ行為を行うことは、人間を捨てることではない。
そこに人間が、人間の感情があるからこそ、テロは……
現在、ISは壊滅状態だそうだ。
ただ、その根本を解決しなければ何にも変わらないのかも知れない。
そこに、人間がいる限り。人間を痛めつける問題がある限り……
膨大な知識量から構築されたリアリティーは、毎度驚きを受ける。
本作を読む前に、『銃と刃と八百万の神』という同作者の別作品を読んだときに感じた時のものと同じくらいのものだ。
設定が細かく、どこまでもズームしてもぼやけない世界がここにある。
個人的に『銃と刃』では圭吾の活躍が印象深かったが、本作ではイザがめちゃくちゃ格好良くて、惚れ直しました。
『銃と刃』で、イザと圭吾のキャラクター性は前知識としてあったので、2人のちょっとした行動とかで、あぁ、と。
知っているキャラクターたちが活躍する物語ってとっても面白いんだって思いました。
本作で好きなシーンはいくつか、というかいくつもあって。kindle で読んでいたら、きっとハイライト引きまくりだったかもしれません。
イザと友香が香港に行くのだが、友香の行動力というか、イザが押され気味だったのは好きですね。友香みたいな活発な女性っていいですね。元気もらえそう。
クライマックスでの友香のセリフ。彼女らしくて、好きな女性キャラを言ってと言われたら、ここしばらくは「友香」かな、って言いそうです。
伏線の張り方も、回収もうぉぉぉってものばかりで。やばかった。
やばい、映画館でこの文章そのまま上映してもいいんじゃないかってくらい、やばい。自分が何言っているのか、一番やばい。
登場人物たちはこれから、どのように生きていくんだろう。
きっと悩む、悩み続けて、自分なりの答えを出しても過去にとらわれ続けていくんだろう。
エルカシュ、ウマルは今、何してんだろう。
本作はフィクションなので、こういうのはアレだが、IS壊滅の情報を受けてどう思ったんだろうとか。
友香はまだ独身なんだろうかとか。イザは娘と同じ距離のままなのかなとか。
彼らがきっと笑っていられる、そんな世界になっていたらいいなぁ。
そんなこんなで、レビューの最後です。本当は★つけるとき、+ボタン連打したかったのですが、押しすぎると★1に戻ったりしちゃうので、2回だけ押しました。めちゃヤバで、面白かったです!
シリアの空爆と、日本の横領事件。
一見すると関連のなさそうな二つの事件が、しかしあるところで繋がっている。
この作品はフィクションだが、今まさにこの現実世界で類似の事件が進行しているのではと思えるほどのリアリティがある。
そして復讐に燃える彼らもまた、耐え難い苦しみを受けた一人の人間であるという衝撃。普段耳目に触れる情報からは感じることのなかったものだ。
その一方で、ラストの飛行機内での攻防、迫るタイムリミットとの戦いは手に汗握る思い。
それになにより、何ら特別ではない人々が協力して困難に立ち向かう、その展開が私にとって最高だった。
主人公のイザは銃器の扱いに長けているとは言っても、戦闘力はさほどでもない。彼一人では何もできなかっただろう。
一人だけでは何も変えることはできなかった。
しかし、イザや圭吾、友香やエルカシュ、偶然その場に居合わせた人々――その一人一人が立ち上がったからこそ、あのラストはあったのだ。
前半は、世界各地の色々な話を書かれていて、後半は、徐々にまとまって……こういう展開好きです笑
また、イザたちの手に汗握るアクションに、ハラハラさせられ、興奮しなら読んでいました。
たくさんの銃が登場し、裏社会というものにも、何か感じました。
そしてイスラム過激派。この作品を読んで、自分たちが彼らのことを誤解している部分もあるのではないだろうか、と考えさせられました。
もっと色々な視点から物事を見つめるべきなのかな、と思いました。
アクションにハラハラしながら、また、紛争地域の人たちについても考えさせられる。全てが詰まった作品でした!
Twitterで「カクヨムイスラーム三部作」なるものを見かけ、別にイスラム圏に格別強い興味があるわけではないけれど既に二作読了済だったのでコンプ欲求から読んでみた最後の一作。まんまとハメられている気がします。こういう人間は課金式スマホゲームに手を出してはいけない。
さて、この作品の良いところはなんといっても厳密な下調べに裏打ちされたリアリティ……なのは間違いないのですが、それはもう他のレビュワーさんが散々言及していますね。だいたい、僕はこの作者様の作品を既に三作読んでいます。つまり創作におけるこの方の武器がリアリティであることは百も承知なのです。その上で「リアリティがあって面白かったです!」なんてレビューを残すのは、京極堂シリーズに「妖怪について博識で面白かったです!」って感想を残すぐらい無意味じゃないですか。いや、『姑獲鳥の夏』はいいですよ。一作目だし。でも『魍魎の匣』以降もその感想なのは違うでしょ。お前どんだけ妖怪好きなんだよってなるでしょ。というわけで、僕はちょっと別のところを推したいと思います。
それは、読者を物語へ引き込むテクニック。
僕もよくやらかすミスなのですが、カクヨムで長編を読んでいると「話が大きな起承転結一つで終わっている」作品によく出くわします。始まり(起)と終わり(結)と見せ場(転)をイメージしてその間を繋ぐ(承)という創作法を取るとこういうことになりがちなのではないかと(僕がモロにこれ)。それの何が問題かというと「承」パートが間延びしやすいんですね。起伏のない展開が読者の途中離脱を招いてしまう。
この問題への対策は色々あります。群像劇的に複数の「起」「承」を用意してワクワク感を煽ったり、ミステリー的に「承」を短く「転」を連発して読者を驚かせてみたり。しかしおそらく一番オーソドックな手法は大きな起承転結の中に小さな起承転結を入れ込んで連作短編のような構造を作ることでしょう。その構造の作り方が、この作品は素晴らしく達者です。
分かりやすく直感的な表現を使うと、話がめまぐるしく動くので先が気になってグイグイ読まされるということです。一つの起承転結が終わった後、その「結」が「起」となって次の起承転結が始まる。それでいて大きな起承転結もしっかり成立しているから長編としての読み応えもある。簡単そうに見えて意外と出来る人少ないんですよね、これ。とりあえず僕は苦手です。
それと読ませる工夫としてもう一つ、リアルを追求しながら随所にエンターテイメント的な割り切りを感じるところも僕的に好印象でした。キャラや展開にケレン味が効いています。
例えば「近藤友香」の扱い。リアリティ優先ならまあ第一章でフェードアウトですよね。香港以降には関わらないでしょう。でもいた方が面白いからちょっと強引な展開で巻き込んじゃって、実際いた方が面白くなっている。「リアリティ」に拘る人の中には「面白さ」と「リアリティ」を比較して「リアリティ」を勝たせる人も結構いるのですが、この作品は「面白さ」をきっちり勝たせていて、それが作品の読みやすさに繋がっているのだと思います。
評論家みたいなことばかり言っていても面白くないので単純な感想も残しておくと、飄々としながらも〆るところはきっちり〆るイザのカッコよさが印象的でした。『銃と刃と八百万の神』でもそうでしたが彼は裏社会の人間なのに妙に人間臭くて親しみやすいところがいいですね。好感もてます。
総じて、重たいメッセージを含みながらも読みやすく読まされる、エンターテイメント性の高い作品だと思いました。作品に込められた情報量は膨大ですが決して知識のひけらかしにはなっていません。掲げられたテーマに尻込みせず、軽い気持ちで手を出してみることをオススメします。
カクヨムの作品というのは基本的にフィクションです。今作も、実際に起きた事件や実在の人物が厳密には登場するわけではありません。
しかしそれでも尚、作中に出てきた人物と同じような人間がこの世界にいて、同じような悲劇を味わい、この作品世界とほぼ同じ世界に自分達は生きているのだと、深く思い知らされました。
そう感じるのは他のレビューでも書かれているように、豊富な知識と綿密な取材から来るリアリティの為せる技です。フィクションを限りなく現実とする技術こそが、この作品の最大の長所であり魅力だと感じました。
緊迫したサスペンスものとしても、手に汗握る展開の連続でした。国も経歴も違えど、それぞれの登場人物に存在するバックボーンが、うまく読者の中に入っていけたからこその緊張感だと思います。
テロやISといった題材は、取り扱うのは難しそうに見えます。そして読者を楽しませるのはもっと困難だと思います。それでもこれほどの評価を受けている、という事自体がこの作品の面白さを示していると思います。
読めば必ず、作者さんの巧みな手腕に魅了され、感情を揺さぶられる事間違いナシだと思います。お見事でした。
リアルな設定や、正に¨今¨起きているテロの恐怖、そして最終局面へと盛り上がるストーリー。
とても面白く一気に読んでしまいました。
その中で、私が特に感じたのは、家族というのは誰にとっても大切な、特別な存在なのだということです。
弟の動画を見て涙するエルカシュに共感し、私も涙が止まりませんでした。
機内でイザが娘の事を思い出し、死にたくないと恐怖する。
本当にそうだと思います。自分の死は怖いけれども、それよりも家族に二度と会えない、自分が死んだらどんなに悲しむだろうか、それを思わずにはいられない。
己の身と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、大切な存在が家族なのかもしれません。
この小説を読んで、家族愛を再認識しました。
次回作も楽しみにしております。
なんと書けばいいのかずっと分からず、あんなに心揺さぶられたのに、なかなかレビューが書けなかった。
とりあえず第1話で泣いた。
そして第6章は泣きっぱなしだった。
(ちょっと涙腺おかしいくなったんじゃないかと心配になった)
それは、この作品に多くの人生がぎゅっと詰まっているからだと思う。
いわゆるモブと言われる人々にも、尊い人生があるのだと、改めて気づかされた気がする。
エルカシュ。彼はきっと元通りの生活には戻れないし、戻ることは許されないのだろう。でも、それでも、彼の人生にもう一度明るい花々が咲き乱れることを祈りたい。そして、アレッポの街にも。
(あーこれを書いてるうちにも思い出して泣けてきた)
現実社会を舞台に展開される、膨大な知識に裏打ちされた、しっかりとした物語です。
銃火器の扱いや、ハイジャックでの飛行機内部の描写、細かい描写のリアリティが素晴らしく、引き込まれてゆきます。
ストーリーの中心に、IS(イスラム国)のテロがあり、舞台は文字通り世界中を飛び回ります。それらを、違和感なく表現し、自然に物語の中に連れて行ってくれる、作者の文章力と知識に脱帽しました。
そのような知識的なことを読む楽しみもさることながら、メインストーリーは、まさに手に汗握るドラマです。単純に、エンタテイメントとして素晴らしい仕上がりになっています。
誰にでも、自信をもって薦められる快作です。