世界各地の人々の吸う空気までが映し出された傑作社会派小説!!

現実世界で起こっていることは、どんな物語より激しく、残酷で・・・風来坊然としたその男の瞳孔が暗示するものは歩んできた人生の壮絶さ。
決してそれは悪に導かれた訳ではなく、普通に生きているだけでそこに追い込まれる人達がいる。それがありのままの現実なのでしょう。
麻薬と武器の売買に手を染めた男は少年のような無邪気さを持ち合わせ、ISISに身を投じた男は弟思いの優しい青年・・・
圧倒的な知識量で再現された作品世界はそこに住む人々の吸う空気までを映し出し、人間がそれぞれ今の生き方に辿り着く過程は決して机上の論理でその善悪を判断できるものではないことを教えてくれます。

仕掛けられた陰謀は今まさに潜入中の何者かが考案の最中であってもおかしくないほど練り込まれており、それを阻止せんとする者たちとの高度な駆け引きが極上のスリルを伴ってグイグイと読者を引き込んでいく・・・そのプロットの精巧さに畏敬の念を抱かずにはいられません。

現実を生きる者たちをいよいよの場面で奮い立たせるのは、あるいは踏みとどまらせるのは、善悪についての賢しげな説法ではなく、人と人との絆であり、愛であり・・・
現実の世界情勢をリアルに描いた作品が作者の国際論の投影と化すのはよくある話ですが、あくまで議論でなく出来事をベースに展開するこの物語はそのような押し付けが一切なく、それぞれにとって大切な人の為に万事を尽くすことがいかに大切かを教えてくれている気がします。

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