10.その巨獣は見覚えがあった
「……あれ!」
僕は視界を塞ぐコメントを消して、アイレイの見ている方角に目を凝らす。
すると、一匹、はぐれた巨獣がうろついているのを発見した。
その巨獣は見覚えがあった。
「あれは……昨日の?」
アイレイが指差す。
その巨獣は一昨日アイレイが相手をした一角獣だった。
「……あれを私たちの足にする」
言い終えるより早く、アイレイは、荷物を僕にあずけると、その巨獣の元へと向かった。
眼の前に現れた、いつかのロリ剣士に驚き、身構える一角獣。
対して、アイレイはさも会話が通じるかのように話しかけた。
「……訳あって私たちは、載せてくれる仲間をさがしている……お前、私たち足になれ」
リズリンもそうだが、アイレイも動物に言葉が通じると信じて疑わない人種のようだ。
ただ、アイレイの口ぶりは、なんというかリズリンよりいくぶん、同じ目線というか、同じ精神年齢に立つというか、フレンドリーな口ぶりに感じられた。
まあでも、だからといって一角獣がフレンドリーかというとそんなことはない。
一角獣は改めてアイレイを見据えると、仕返しとばかりに、突進をしてきた。
「……やるか! 力比べ!」
アイレイは、昨日と同じように一角獣のツノを両手でかっしりとつかむ。
それから、昨日よりも豪快に、巨獣を投げ飛ばした。
「……どうだっ!」
「おみごとっ!」
おもわず僕も叫んでいた。
すると、投げ飛ばされた一角獣は、アイレイに向き直る。逃げるかどうするか、考えているようにも見えた。しかし、暫くすると鼻を鳴らして、観念したようにアイレイに頭をたれる。
「……草原の民はどんな生き物とだって仲良くなれる」
アイレイは振り返って得意気に言った。
「大したもんだよ」
アイレイは満面の笑みを返した。
一角獣の鼻をポンポンと叩くとその身体を確かめるように触れてまわる。
「さて、これで足も手に入ったし、キースの街へ向かいますか」
アイレイは、巨獣に乗るために、自身の身体にくくった荷物の縛り具合を確認する。
そして、慣れた動きで、巨獣の上に乗り込んだ。
「……ユキヒト、いこう」
アイレイは、僕に手をのばして腕を掴むと、強い力で背中に引き上げた。
一角獣の移動速度は、全速力すれば馬に匹敵するものだった。
ただし、馬と違って鞍もないことから、しがみつくのに必死だった。
一方のアイレイはそんなことを気にせずに、巨獣の首周りの、頑丈な毛をその手で掴み、街道をすすむ。
僕は、毛をずっと掴んでいられるほど、握力が続かなかったので、最終的にアイレイの身体に腕を回していた。
平地を走る際の乗り心地は悪くはないのだが、この個体のクセなのか、時折ぴょんと跳躍することがあり、僕はそのたびに、アイレイに強く抱きつかなければならなかった。
「……そこはくすぐったい」
「え、あ……ご、ごめん」
僕は、極めて紳士的な抱きつき方しかしていなつもりであったが。
一角獣の歩みは早く、先行するメルバやリズリンたちより半日程度遅れるくらいで、たどり着くことが出来そうだった。
辺りはすでに暗くなっている。
つまり、到着するのは深夜だ。
けれど幸いアイレイは夜目がきくらしく、特に迷うことなく街道を進む。
また、先ほどの巨獣たちの群れも、その街道にそって進んでいたため、道が作られて迷いようもなかった。
そして、程なくして、開けた場所に出る。
そこは小高い丘。
眼下には、集落らしき建物が、月明かりの下に照らされて並んでいるのが見えた。
街の建物周辺には、煌々と松明が掲げられていた。
さらに、街の周りには何かがうごめいていた。
それは、朝方目撃した様々な種類の巨獣たちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます