4.ハンターたちは見下ろしていた
ハンターたちは腰からは刀を下げ、その手には大弓を持ち、僕らを見下ろしていた。
人数はこちらとおなじ四人。
ゴブリンとオーク、それとエルフらしき男たち。
一団の中から、リーダーとおぼしきすらりとしたゴブリンの男が一人歩み出た。
「あんたたち大丈夫か?」
亜人たちは、リズリンとアイレイの前に立つ。
それから、二人を訝しげに見る。
「巨獣の討伐を請け負った冒険者か?」
亜人たちは、リズリンの扮装を見る。彼女が何がしかの神に仕える者であることを服装から見て取ったようだ。
リズリンのローブには、アナ・ヒティスの信徒の印である稲穂の紋様があしらえてある。
「私はルアの神々の一人アナ・ヒティスに仕える神官です。たしかに巨獣の討伐は請け負っておりますが……悪戯に命を害するようなことをするつもりはありません」
リズリンは倒れた一角獣を気にする。まだ息があるようで、もぞもぞと動いていた。
彼女は一角獣に歩み寄ると治癒魔法をかけはじめた。
僕は、巨獣が飛び起きないかと心配していたが、幸いそんな様子はなかった。
「命の危機とお見受けしましたのでね、余計なことをしてしまいましたかね」
温和そうな表情ではあったが、どこか皮肉めいた言い回しで男は応えた。
「……お前たちは何者だ?」
兜の面をつけて、顔を隠したアイレイが亜人たちに尋ねる。
亜人を含む冒険者の中には、アイレイ程度の身長のものも多い。ただ、アイレイは自身の幼い顔立ちが、初対面でマイナスの印象に働くことを理解していた。
「我々は、この森のすぐ外にいる商隊付きの護衛ですよ」
もうひとりのエルフの男が言った。
「なんで商隊がこんなところにいるの?街道は巨獣のせいで通行禁止でしょ」
メルバが亜人たちに尋ねた。
「いや、それは我々も承知している。だから、我々のような護衛がいるのですよ」
メルバとアイレイは、胡散臭そうに亜人たちのハンターを見ていた。
一方の、亜人たちも、訝しげに僕らを見ている。
というか、主に僕を。
「そちらの方、種族は?」
きた。
リズリンが答える。
「彼は、私の一番弟子です」
「では、妖精族ですかな?」
「いいえ」
答えようとしたリズリンを僕が制して口をひらく。
「俺は……人です」
「人? ヒト族? あの幻の種族の?」
「はい」
「ヒト族? あのヒト族?」
この世界において、人間は希少種だ。
というか、僕も、僕以外のヒト族に会ったことがない。聞くところによるとこの世界の純粋な人類種は太古に滅んで、亜人たちと交わったらしい。
「あの、世界を七日間で焼き尽くしたり、多種族を皆殺しにして絶滅させるとか、亜人だろうがなんだろうか、誰彼構わず発情して子を作ろうとする、ゴブリンよりもタチが悪い、ひ弱なくせして、集まると神殺しも竜殺しもやってのけるという一族?」
人類は伝説では印象が悪い。予想通りの反応が帰ってきた。
「……俺、そんな、酷い奴に見えます?」
「いやいや伝説です、まさかヒト族に会えるとは、いやあコレは珍しい」
亜人の男たちは、ほんとうに興味深そうに僕のことを見ていた。
「アナ・ヒティスといいましたか、ローブの印からルア・エクヒに連なる神さまかとお見受けします。あいにく名を私は存じ上げませんが……どうですか神官様、我々の商隊に立ち寄って、ありがたいお話の一つでもしていただいて、旅の祝福をくださいませんか?」
この世界には、数多の神がいる。
そして、リズリンのご先祖様たるアナ・ヒティスは、強烈にマイナー神だった。
それでも、ルア・エクヒの名のもとに一括りで尊重するのが、おおざっぱながらも、この世界の習わしだ。
「もちろん、そういったお話には喜んでお応えしますよ」
リズリンは、柔らかな笑顔を返す。
「ですが、ちょっとまっていただけますか?」
リズリンはそう言うと、今しがた自身らを襲わんとしていた一角獣を見下ろし、回復魔法をかける。
「この世の生きとし生けるものはすべて、ルア・エクヒの御子です」
言い終わるより速く、目の前で巨獣は傷を癒やした。
男たちも含め、また巨獣が暴れだすのではないかと、緊張が走った。
「大丈夫です。この子にもはや攻撃の意思はありません」
リズリンがそう言うと、一角獣は今度こそリズリンに頭をさげる。
それから、僕らを一瞥すると、森の奥へずごずごと引き上げていった。
「確かに、我々の助けなどいらなかったのかもしれませんね。これはぜひ我々の商隊にご招待させていただかねばならないでしょう」
ゴブリンの男が感嘆し、彼らが歩んできたであろう方角を指示す。
僕らは、彼らについて、森の外に向かった。
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