13.屋根の上に作られた鐘楼に出た
僕らは、祭場の内部にある狭いハシゴを通って、屋根の上に作られた鐘楼に出た。
そこからは、小さな宿場町が一望できた。
リズリンは鐘楼から張り出した人一人やっと歩けそうな足場に立って、両手を広げる。
祈りの言葉をつぶやく。
「神聖なる女神アナ・ヒティスよ」
リズリンの問いかけによって、風が巻いているような気がした。
「天地の間に清浄なる新風を吹きて、天を清め地を清め、神気を成して執り成さん!」
リズリンは叫ぶ。
「神理に違わぬ務めをもって、天空大地大海原を駆け巡り、大神の業を用いて、永く悪しき風を祓え!」
リズリンが高らかに、アナ・ヒティスへの言葉を紡ぐ。
すると、リズリンを中心として光の粒子がうずまく。
「天に座す神聖なる女神アナ・ヒティスよ、世を清浄なる場所へと立ち戻せ!」
次の瞬間には、光の粒子は大きくひろがって、町の外へ溢れ出る。
すると、辺リズリン徘徊していた巨獣たちが歩みを止める。
リズリンは目をつぶり両手を広げ、天に向かい祈り捧げている。
その光は、夜にもかかわらず、周囲を明るく照らす。
多種多様な巨獣たちは、宿場町を中心に、リズリンを中心に、綺麗に整列をしてそれを見上げた。
「おお、なんと神々しい」
「すばらしい、奇跡じゃ」
祭場の外から、彼女を見上げていた人々が口々にリズリンの姿を評した。
僕は、目の前で光りに包まれる彼女を見ていた。
彼女は一瞬だけこちらをむいた。
それから、最後に強く輝くと、光を失ってその場に倒れこんだ。
「うわっ」
僕は咄嗟にリズリンの腕を掴んで抱き寄せる。
リズリンはあやうく鐘楼から転げ落ちるところだった。
リズリンは腕の中で寝息を立てていた。
それから、だいぶ時間が立って夜が明けると、辺りから巨獣は消えていた。
もっとも、シャルロットは残っていて、メルバとアイレイがそれにもたれかかって休憩していた。
リズリンは朝方には目をさまし、疲れを押して、怪我をした市民達の治療に精力的にあたっている。
僕は、頑張りすぎているリズリンが倒れるんじゃないかと思ってハラハラしたが、なぜだかリズリンは肌ツヤもよく、むしろ、昨日より元気に見えた。
メルバが起きてあくびをしながら僕のところに来る。
「これで、アナ・ヒティスの神性、殆ど使っちゃったんじゃない?」
僕は、メルバの問いかけに応えない。
「…………」
メルバは僕の様子がおかしいことに気づいた。
その時、僕は、伝像の神器を見て、その驚愕の光景に言葉を失っていた。
「どしたの?」
「実は、昨日の昼からずっと配信しっぱなしだったんだけど……」
僕は、昨日アイレイの巨獣確保から、今の今までずっと配信を続けていたことを思い出した。
コメントは時間があっただけに膨大な量になっていた。
そして、会員数、要するに信徒の数が大幅に増えていた。
「いちじゅうひゃくせん……な、な七千人……?」
「どうしたの?」
「会員が増えてる、ばかみたいに、その……百倍くらいになった」
「えー、凄いじゃん! なんで? どうしたの?」
「バズった」
「バズった?」
「あっ、リズリンの肌ツヤがいいのって、これが原因か! 昨晩のあの大規模な奇跡行使にもかかわらずリズリンの神性はそこなわれていないし! ていうかむしろ、馬鹿みたいに増えてる! 今までのストックの3倍くらいになってる!」
「ええ?」
寝ぼけ眼のメルバは、素っ頓狂な感嘆の声をあげた。
僕は過去ログからコメントをチェックする。
――神放送
――すごい演出
――いやなにこれ何のゲーム?ほしいんですけど?
――海外のベータ版らしいよ
――いやいや、こんなゲームねえよ
――これムービーだろ?
僕は、その場にへたり込んだ。
「……ん、どうしたの?」
すぐ向かいで、シャルロットとアイレイが同時にあくびをした。
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