12.僕は首にしがみつく
シャルロットは、跳ねるように街に向かう。半壊して隙間の空いた壁をよじのぼり、街の中に入った。
街の中は、いちど巨獣たちに蹂躙されたらしく、いたるところで建物が倒壊していた。
また、幾つかの場所で火事があったらしく、煙も上がっていた。
僕はシャルロットを神殿の前に進める。
神殿の前には、街の亜人たちが武器をもって周囲を警戒していた。
「おい、巨獣がまた一頭入ってきてるぞ!」
「ど、ど、どうするんだ!」
亜人たちが叫ぶ。
僕は攻撃されてはかなわないと思い、身を乗り出して自身の存在をアピールする。
「まって、待ってくれ! 俺は、リズリン様の従者です。この一角獣はリズリンのしもべで、害はありません」
「? それは本当か?」
「リズリン様の従者といったな」
「なにか証明するものはあるか?」
僕は、シャルロットを降りると、自身のローブに記された、リズリンの主神たるアナ・ヒティスの稲穂の紋章が記された天結晶のネックレスを見せた。
リズリンから預かっているものだ。
「この子は、外の巨獣たちのようにあばれることがありません。どうか刺激しないように。……そのリズリン様は、中にいるのか?」
僕は、なるべく毅然とした態度で、彼らに接する。
礼節が物事を円滑にすすめるということを理解したのは、たしか冒険者の酒場でのアルバイトだったかと思う。
そういうことがこの世界でも役に立った。
僕はこの世界についてから、本当に日々色々なことを改めて確認し、学んでいるような気がした。
「これは、確かにリズリン様と同じ紋章ですね。では、中へどうぞ。リズリン様は祭壇の最上段にいます」
僕は神殿の中に入る。
そこは、野戦病院かと見紛うほどの、凄惨な状態にあった。
そこら中に怪我をした市民がいて、うめき声が聞こえる。
僕は、泥と汗と血の混じった匂いに息を飲む。
しかし、動揺を顔に出さないようにして、奥に向かう。
神殿の奥は祭壇になっていて、そこは大きな緞帳で隠されている。
脇に小さな階段があって、僕はそこから奥に案内された。
緞帳の裏側にはさらに、地位さな祭壇があった。
そこには、座して瞑想し、法力を展開しているリズリンがいた。
僕を案内した男は、ある一定の距離以上にリズリンに近づかなかった。リズリンのその姿は神々しく、おいそれと話しかけられる雰囲気には見えないのだ。
僕が傍に寄ると、リズリンは薄目を開けて振り向く。表情には疲れが見て取れた。
「ユキヒト、来たのね……てことはメルバには会った? いま彼女が解決方法をさがしているの。なにか言っていた?」
「ああ、メルバは解決方法を見つけた」
「そう、さすがメルバ。それで、この町の人を助け、巨獣たちを森に帰すにはどうすればいいの?」
「君が昨日助けた、森の巨獣。あれにしたのと同じ奇跡の力で、街の周りの巨獣を浄化してあげるんだ」
リズリンは、僕の言葉を聞いて目を見開く。
「それが、どういう事か分かっているの? ……いいえ、メルバもアイレイもわかっているから、ユキヒトをここによこしたのね」
「二人で決めろってさ。……あと、メルバが防護陣、肩代わりするから、君は術を問いて休憩していいそうだ」
リズリンは僕の言葉を聞いて力を抜く。
リズリンは術の行使は止まり、張り詰めていた空気が柔和した。
「つ、つかれたー、いやー、神様の代理ってほんと大変よねー」
おい、素直に感想いいすぎだぞ。
それを聞いた案内の人が驚いている。
リズリンは、街の人に笑顔を見せてごまかした。
僕は、リズリンに天結晶のネックレスを渡した。
「今溜まっている分を蓄えるのに半年かかっている。それでも、多分私たちが望む奇跡を起こすにも、ユキヒトを元の世界に送り返すのにも足りない」
「うん」
「いいの?」
「まぁ、リズリンが人々を助けたと願っているんだから、俺たちの関係ないところで、奇跡を使うのは仕方がない」
「関係ないとかって言い方はずるくない? それだと、私が一方的に罪悪感をもつことになるでしょ?」
「罪悪感、あったのか」
「あるよー、奇跡を起したら、いつもその後で後悔するの。あー、ユキヒトに怒られるなーって」
「後で?」
「うん」
「その時、迷ったりしないの?」
「しないね、一ミリも」
「……少しは躊躇してくれ!」
「……やっぱり怒ってるじゃん」
すこしシュンとするリズリン。
僕はそれをみていて可笑しくなった。
「まぁ、俺はさ……最近、僕はこの世界が結構好きなんだ」
「……そうなの?」
「俺が元いた世界はぬるま湯のような安全があふれていたんだけどね、来たばっかりの時は、それとは真逆で、とても過酷で危なっかしくて、絶望や死もあふれていて、とても大変で恐ろしかった」
「だから軟弱なのね」
お前に言われたくねえよ。
「……それでもさ、今は、その前の世界にいたときよりも楽しいんだ」
「それは本心?」
「もともとすぐに帰れるとも思っていないしな、それに、この世界の何処かには、もしかしたら劇的に神性を高める方法がどこかにあるんじゃないか、とも思っているし」
「ふーん?」
リズリンは僕を覗き込むように尋ねる。
「ようするに、まだ旅を続けたいと思っているから、ここで神性を使っても、何の問題ないと?」
「……う、うん、まあ」
「ほーう、じゃあ、ここは一つ、リズリン様が、本気でちゃちゃっと奇跡おこしちゃいますか!」
「いや、でもさ、ちょっとは節約してくれ……」
「それはねー、状況次第でしょ!」
なんで、お前はそんなに嬉しそうなんだ?
奇跡大好きっ子なのか?
というか、奇跡の扱いだいぶ軽くね?
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