14.あれから僕らは [END]
あれから僕らは、メルバの調査にもとづいて、一連の事件の顛末を大都の評議会に垂れ込んだ。
内容としては、ビクの魔法花の被害と、商隊に不穏な動きがあったことが中心だ。
それを伝えた直後に、機動兵団がすぐに動き、商隊の一部の人員が某国から潜入した間者である事が判明した。
僕らは、その一件と、交易路沿いの宿場町を守ったことに寄って、大都のギルトその他からたいそう感謝された。
大都の評議会は、リズリンに結構な金額の報奨金を出そうとした。
しかしリズリンは、アナ・ヒティスの善意であるとして、最低限のお礼以外は受け取らなかった。
これについて、メルバやアイレイが不満を述べていたのは、言うまでもない。
一方、ぼくらの側は、リズリンの神性が大幅に増えたことでけっこうな恩恵を得ていた。
リズリンが多少の神性をつかったても、減ることが無くなったため、より一層自分たちの布教活動がしやすくなったとでも言えばいいだろうか。
そして、視聴者増に味をしめたメルバとアイレイは、調子に乗って新たな登録者獲得のために、リズリンの番組企画に口を出してくる。
ここは、某ダンジョン。
「ねえ、本当にこんな格好で配信しないといけないの?」
リズリンは、メルバとアイレイが協議して作った、露出度の高い神官服を身にまとっていた。
すなわち、ギリギリのミニスカートに、背中の大きく開いたデザイン。
しかもピッタリとした布地で、リズリンの身体のラインがはっきりと現れている。
ローブは新調したもので、やや透けている素材で、なんというか痴女めいたキャラクターのコスプレじゃないかと思った。
「まぁ、ファンタジー世界でこういうの、たしかに受けるかもしれないけどさ……」
僕は、コメントを見る。
コメント欄には、ひどい内容の興奮した書き込みが多数寄せられていた。
――なにこれエロ放送?
――凄い可愛いんですけど?
――誰この子?
――リズリンちゃんきたー
――なんか露出度あがってね?
――ここが天国ですか?
僕はため息を付く。
「じゃ、行きますよ今回のタイトルコールとクエストの説明をお願いしまーす」
僕は投げやりにキューを出す。
リズリンは、やや照れながらもタイトルコールをはじめた。
「ええと、第九十回、勇者リズリンの魔王討伐はじめちゃいました! 番組開始ですっ!」
リズリンは、言いながら、精一杯の笑顔をつくって、自らがこれから踏み入るダンジョンを紹介する。
元気なリズリンの声がダンジョン内にこだまして消えた。
「わーっ! ぱちぱちぱち!」
「リズリン様、かーわーいーいー!」
僕の後ろから、乾いた拍手と、声援が聞こえる。
リズリンが二人の声援を受けて、顔を真赤にして隠す。
僕は寒々しくもグダグダなオープニングに、目眩がした。
「次、今日のクエスト内容」
「は、はい今日はですね、この岩山に隠れ住むという、保護色のスライムさんが悪さをするので討伐します! 本当は殺したりしたくないんですか、流石に言葉も通じないので、ちょっとどうしようか考えてます。ええと、たぶんですねこういうところに、擬態して隠れるのが、そのスライムさんの特徴で。たとえばここっ!」
リズリンが、自身の腕で、岩肌をコンと叩く。
すると、恐ろしいことに、次の瞬間、壁一面がスライムに変わった。
「えっ、あっ?」
「……まずい」
「こんな近くに!」
目つきのかわったアイレイがリズリンを守ろうと飛びよる。メルバは杖を構える。
「きゃっ!」
「うわあああ」
しかし、僕たちは、突然のスライムの大群に飲み込まれた。
「リズリン様っ」
「ちょっと、もうなんなのよこれ!」
「メルバ! 火をつかえ」
アイレイが叫ぶ。
「わかってるわよ!」
メルバが吠える、ものすごい熱波が巻き起こり、辺りが爆発する。
恐る恐る目を開けると、スライムの大群は散り散りになって逃げていった。
「ふう、びっくりしたあ」
僕は、自身の安全を確認した後で、三人の方を見る。
すると、彼女たちは、スライムに服を溶かされて、ほぼ全裸に近いような格好になっていた。
「えっ」
「……ん、あれ鎧が」
アイレイとメルバは自身が裸体であることに気づく。
「ちょ、いやっ! きゃあああああ!」
リズリンが悲鳴をあげた。
一方僕が気にしたのは、今しがた配信しているライブ放送のことだった。
「まずいっ!」
僕は配信をチェックする。
コメントは、彼女たちの肢体についての言葉でうめつくされていた。
さらにそれは、停止状態にあって、放送画面は真っ黒だった。
「ちょっとなんでこんな……」
リズリンがうずくまるが、あたりにはスライムがうごめいていて、また立ち上がる。
「まー、私のローブは無事だから問題ないけどね」
メルバは自身の魔法ローブにまとわりついたスライムを落としている。
というかお前はその下はほぼ全裸だけどね。
一方アイレイは、鎧の金属部以外を溶かされていた。
「……んー、葉っぱでもまくか」
ダンジョンに葉っぱは自生してねえよ。
いや、それよりもだ。
「ユキヒト、どうしたの? 興奮して前かがみになって?」
「前かがみじゃねえよ! うなだれてるんだよ!」
「……どうした?」
僕は、恐るべき状況についての報告をした。
「‥…BANされた」
「……ばん? てなに?」
アイレイには聞き慣れない単語であろうが、それは、すべてを失ったことを意味していた。
「は、配信停止……放送権利の剥奪」
「なにそれ、伝像できなくなったの?」
状況のわからないメルバが尋ねる。
「今までの会員がすべて消えた」
「ちょっと、それってどういうこと? 会員てことは、神性がなくなったってこと……?」
「いや、神性は、すぐにはなくならないけど、使っても回復しない」
「なんでそんなことになるのよ」
リズリンは、自身が全裸であることと、神性が失われるという事実を聞いて、ひどく動転している。
「えっ、あっ、なんか力ぬけてく? えっ、とめて、とめて、なにそれ怖い、ねえユキヒト!」
リズリンは、僕の肩をつかんで、揺すりはじめた。
しかし、動転しているのは僕も同じで、僕は思わず言い返す。
「お前らが全裸だからにきまってんだろ! 七千人の会員が全部パーだよ!」
「なんとかしなさいよ!」
「なーらーねーよ!」
「……じゃあ、私こんな格好して、損しか無かったじゃん」
リズリンが、さめざめと呟く。
「そういうことじゃなくてだな……」
僕は嘆きながら、眼の前のリズリンを見返す。
リズリンは、思い出したように自分の胸や前を隠す。それから、綺麗な回し蹴りで、僕を蹴り飛ばした。
「こっち見ないでよねっ!」
そして、僕らの旅は続くのだ。
[章END]
残念ヒロインズ、異世界クエスト配信はじめました mafumi @mafumi
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